持ち家を賃貸する
貸し出すための必要経費
海外赴任者のほとんどは、不動産業者や管理会社などに持ち家の賃貸運営の業務を委託している。委託する際は、「業者がどこまでやってくれるか」など、業務の範囲や原状回復に対する明確なルール、システムを持っているかどうかを確認するようにしよう。
賃貸にあたり、「持ち家を貸し出して賃料収入を得るための必要コスト」がある。まず、賃貸市場に供する商品として最低限の体裁は整えなくてはならない。一般的には、事前のハウスクリーニング、畳・襖(ふすま)の交換などの修繕コストが考えられる。このほかにも、内装の状況によっては床や壁クロスなどの張り替え工事も必要な場合がある。
これらは、家を賃貸する場合のルールというよりも、賃貸市場において入居希望者が「借りたい」と思える状態かどうかの判断材料となる。
築年数が浅く、内装などの状態も良好であれば、ほとんど手を入れずに募集することも可能かもしれない。逆に、建築後 10 年以上経過していれば、それなりの初期経費を覚悟する必要があるだろう。
賃貸期間中、貸主は物件の維持管理の費用を負うことになる。具体的には、給水・排水管、給湯器や給湯管、ガス管、電源配線などの基本的な設備および装備の維持・修理費用、一戸建ての雨漏りの修理などが挙げられる。業者に賃貸運営の管理業務を委託した場合には、業務の委託費と毎月の賃料から一定率の管理料が差し引かれる。
スムーズな明渡し
ひと昔前は「家を一度人に貸すと出て行ってもらえなくなる」という言葉をよく耳にしたが、近年はかなり状況が変わってきた。法的な整備が進んだほか、持ち家を期間限定で貸し出すことに社会的な認知が浸透してきたことが大きな理由として挙げられる。
定期借家法の施行により、一定の契約条件のもとで「更新のない賃貸借契約」を交わすことが認められて、海外赴任者にとって「居座り」のリスクが大幅に軽減されることになった。
ただし、定期借家法の適用を受けるための要件を満たした契約書を締結しておくことが必要なので注意しよう。
不動産業者などに業務を委託する場合、その業者がきちんとこの法律を理解しているかどうかを確認しよう。
家を貸す際の届出
① 住宅金融支援機構の融資を利用している場合
住宅金融支援機構は、自ら居住することを前提とした低利の公的融資のため、融資を受けた住宅を長期間留守にする場合は「住所変更届」の届出が必要で、申請書は融資の窓口になっている銀行などの金融機関を経由して提出する。
② 公団・公社の分譲物件、新住宅市街地開発法地域の物件の場合
自ら居住することを目的とした公的な住宅分譲事業のため、住宅を貸し出して賃料収入を得ることは購入時の売買契約で厳しく制限されている。
代表的な例としては、首都圏では多摩ニュータウンや千葉ニュータウンなどが挙げられる。しかし、この場合も転勤者には例外が認められている。住宅金融支援機構の場合と同様に、決められた届出が必要である。(マンションの場合は管理組合にも届け出ること)
原状回復について
持ち家を人に貸し出し、その対価として家賃収入を得るからには、ある程度の自然損耗や経年変化による内装の汚損などは覚悟しなくてはならない。
いわゆる賃貸借契約には、通常「原状回復」の条項がある。借主は契約終了時に、物件を原状に戻してから貸主(オーナー)に返還しなくてはならない。原状回復の範囲をめぐって借主と貸主の間にトラブルが発生するケースが増加し、マスコミなどでもしばしば取り上げられているが、昨今の流れは借主(消費者)保護となっている。
たとえば、レンタカーを借りた場合、使用後にタイヤが磨耗したからといって、その交換費用を請求されることはないし、洗車費用を請求されることもない。通常は、使用による消耗や汚損は、すべて借主が支払う賃借料に対価として含まれている、という考え方である。持ち家の賃貸に当てはめると、「ハウスクリーニング費用や壁紙の変色、畳・襖(ふすま)・障子などの変色や摩耗などを、原状回復費用と称して借主に請求することはできない」という考え方になっている。
賃借人に対して原状回復費用として請求できるものは、賃借人の故意・過失、その他通常使用の範囲とは認めがたい損耗、損傷などになる。これらは、不動産業者や管理会社などに対して「ガイドライン」というかたちで明文化されている。
留守宅管理サービス
転勤中の持ち家の管理を専門に扱うリロケーションサービスが存在する。
リロケーション・ジャパンは業界初のサービスとして約 35 年以上サービス提供を行っている会社である。
転勤者を対象に「一時使用賃貸借契約」という特殊な契約形態でサービスを提供しており、そのことによって「戻れる賃貸」を実現している。このサービスでは物件を所有する貸主からの解約予告が業界最短の3ヶ月前で可能となる。
また、滞納家賃の立替保証、入居期間中の設備故障に対する工事保証(5 万円まで無償)、火災保険対象外の施設の損害保証、自殺など万が一の事故があった場合の物件買取保証、帰任時の明渡に不履行があった場合の明渡保証など、通常の不動産会社では行っていない留守宅管理専門会社ならではのサポートメニューもあり、それらが活用できることで初めての賃貸でも安心して賃貸運営が行える。
業界 No.1 の実績を持ち、持家賃貸に関するさまざまな事例に対応するノウハウをを蓄積している。赴任者にとって有力な業者選定の候補となるであろう。
知人や親戚に貸すことの良し悪し
① メリット
持ち家を近所や勤め先の知人もしくは親戚などに貸すことは、手間のかかる手続きや業者に支払う業務委託料も発生しないし、相手も気心が知れているということで、その安心感は大きなメリットである。
② デメリット
ビジネスライクに知人、親戚の故意・過失による損傷を指摘しにくいという問題がある。帰任後に家を返してもらった時の、室内の損傷などの精算(原状回復)問題などは、容易に想像できるだろう。
極端な実例では、「従姉妹夫婦に家を貸した」「在外中に従兄弟夫婦が離婚し血のつながらない従姉妹の夫が賃借権を主張して明渡しを拒否している」などという話もある。これらは、専門の業者に委託して契約をしていれば防げるトラブルである。こうしたトラブルを考えると、「○○さんが住んでくれるのなら、家賃はいくらでもいいわ」と契約書も交わさずに、口約束だけで家の貸し借りをすることはあまり賢いやり方とはいえない。
賃貸借契約書
知人や親戚に貸す場合でも、専門業者を間に入れるのが理想だが、費用が気になるようなら最低限、賃貸借契約書だけでも取り交しておこう。