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外国に住まわせてもらっているという意識

伊東 佐久良(会社員)

海外で生活すると、日本では「当たり前」と思っていたことが、その国では通用しないという経験をする。もちろん日本にいても、海外のニュースや情報をある程度入手することはできる。しかし、「お国事情」は体験してみないと分からないことが多い。

いま住んでいる上海は、急速な経済発展とともにここで生活する外国人にとっても便利な都市になっている。それもそうだ、2008年末の上海の外国人常住者は15万人以上、流動人口で半年以上滞在している外国人数は517万人以上に上る。これは上海市の人口の3分の1に当たる数字だ。

また、旅行者も含めると常に日本人が約10万人いるという。日本食を食べたいと思えば、どの店に行くか悩むほど日本人を対象にした店は多い。焼き鳥やラーメンから高級すし、天ぷら、さらにはもつ鍋やトロの専門店まで。昼下がりにふと立ち寄りたくなるカフェもあれば、すてきな夜景を眺めながら洋食を味わえる高級レストランもある。思わずここが中国であることを忘れてしまいそうになる。

そんな生活の中で、「ここは外国だ」ということを実感させられる出来事があった。日本好きの現地の職場仲間と話していて、「いつか一緒に日本へ遊びに行こう」とつい何気なく口にしてしまった。そのときは気付かなかったが、あとで聞けば彼女たちは「簡単に日本へは行けなかった」のだ。

中国人の日本への個人旅行は、まだ認められていなかった。その後2009年7 月には北京・上海・広州の富裕層に対し、日本への個人旅行が解禁されたが、富裕層というのは年収25万人民元(約325万円)以上という条件付きを意味する(2010年には、中国大陸部全土の富裕層に解禁される予定)。

そうした事情を知らずに、彼女たちに気軽に「一緒に日本に行こう」と言うことは、無神経だったのではないだろうか。あの時の「そうですね」という微妙な顔には、ここは中国だということを忘れてしまっていた私への批判の気持ちもあったのかもしれない。

巧みに日本語を操り、日本の文化もよく知っている同僚たちと話していると、彼女たちにとって日本に行くことが容易ではなく、しかも人によって状況が違うとは思いもしなかった。

アジアの国際化した都市では、外国人でも住みやすい環境がある。また、海外でも日本に精通し、日本人を理解してくれる人と出会えることはうれしい限りである。ただし、そうした生活の中でも、私たちは日本人として、外国に住まわせてもらっているということを忘れてはならないと思う。