教育の選択(2)

現地の学校教育

子どもの学校選びには「これが正解」というものはない。子どもの年齢や性格、滞在予定年数、居住地域の教育的諸条件などにより、さまざまな結論が可能になる。また、父母が子どもに託す夢もあれば、学費負担能力も関わってくるかもしれない。
日本人学校は「日本国内の学校と同じように学ぶ」ことを前提に運営されているし、児童生徒も教師も日本人がほとんどである。教科書も日本のものだし、年度は4月から3月までだから国内の転校とほとんど変わらない。子どもにとって、いわゆる「異文化ショック」が少なく、転入時も日本に帰国するときも、比較的円滑に新しい環境に適応していける。難点は、よほど積極的にならないと現地理解や国際交流ができないこと、中学部までしかないので、高校から帰国するか国際学校などに行くかの選択を迫られることくらいである。
現地校は、その国の子どもたちと一緒の教育を受けるので、さまざまな民族が入り混じり、いろんな価値観を肌に感じながら過ごすことになる。当然「異文化ショック」は大きく、転入後しばらくは、親子ともども格闘が避けられない。言葉や授業などが早く理解できるように家庭教師を雇ったり、学習塾に通わせたりする家庭も多い。母親は学校のボランティア活動に協力を求められるし、父親もPTAへの参加を求められるのが普通だ。しかし、そうした努力が続くうちに地域社会の一員として認められ、その国に暮らす人びとの価値観や皮膚感覚を体験的に学ぶことができる。
国際学校も、多国籍の子どもと一緒に学ぶことで、多文化共生の空間を体験的に学ぶことになる。当然「異文化ショック」はあるし、授業についていくのも大変である。また、学費が日本人学校のほぼ3倍になる(日本政府は日本人学校の総運営経費の約3分の2を助成)ので、親の負担感は大きい。しかし、世界各国に友達ができるメリットは、成人したときの大きな財産である。
現地校や国際学校に通う場合は、日本語の保持・伸張にも努めなければならない。通信教育を続けたり補習授業校に通ったりしながら、日本の学校の学習もある程度やっておかないと帰国したときが大変になる。親子ともども「逆・異文化ショック」に悩まされる例も少なくないのである。
こうした一長一短を踏まえたうえで、子どもや家庭の現状を考慮していく。

子どもの年齢

年齢(学年)が上がるほど学習用語も内容も高度になるから、外国語による授業についていけるようになるまでの努力と時間も、よりいっそう必要になる。日本人学校は中学部までしかないので、高校から現地校か国際学校に進学するくらいなら、最初からそちらの教育体系で学んだほうがよいとも考えられる。兄弟姉妹がそれぞれ別の学校に通うという場合もあり得る。

親の任期


その土地にどれくらい滞在する予定なのかも大事な要素である。現地校や国際学校での2年足らずの経験では、その間の学習内容を十分に理解できず、また日本の学校の学習も中途半端になってしまうのが普通だ。その点、日本人学校なら安心である。

子どもの性格など

外交的か内交的か、大らかか繊細か、要領がいいかコツコツ型かなど、子どもの性格によって新しい環境への適応経過も違ってくる。また、思春期になると子どもも自分の性格を自覚し、興味や関心を主張するようになっている。なかには、海外は二度目という子もいるだろう。子どもが納得するまで親子でよく話し合う必要がある。
障害などで子どもに心配のある場合は、学校や地域の教育委員会によって受け入れの状況が異なってくるので、海外子女教育振興財団などに相談しながら、現地と連絡をとるようにしよう。

親の学費負担能力

現地校のうち公立校は一般的に授業料がないが、私立学校と国際学校はかなりの授業料が必要である。日本人学校はその約3分の1だが、それでも安くはない。授業料に入学金や学債、スクールバス代なども加えた学費の総額を親が払えるのか、慎重に検討すべきである。勤務先から教育補助があるかどうかも確認したい。

現地情報の入手

インターネットやEメールを使えば、最新の現地情報も入手できる時代になった。体験者に直接会って話をきく機会も結構あるし、事前に現地調査に出かけることもまったく不可能ではない。しかし、子どもの学校を決定するのは現地に赴任してからでもよいので、焦らないこと。また、学校が決まってから家を探しても遅くはない。
通いたい学校のスクールバスが来ないところ(公立校なら学区外)に家を借りたりしないように、気をつけたいものである。

各国の年度・学期制

* 印は別の学期制もある場合 <
1月開始の国 2期制 シンガポール、マレーシアなど
3期制 ニュージーランド、スリランカ、バングラデッシュ、ブルネイなど
4期制 オーストラリアなど
3月開始の国 2期制 韓国、アルゼンチン、パラグアイ、ブラジル、チリなど
6月開始の国 2期制 インド* 、パキスタン* 、ミャンマーなど
4期制 フィリピンなど
8月開始の国 2期制 インドネシア(中・高)、台湾、パキスタン* など
3期制 インドネシア(小)など
9月開始の国 2期制 アメリカ*、カナダ*、ドイツ*、スイス*、イタリア、アイルランド、
チェコ、中国、ベトナムなど
3期制 アメリカ*、カナダ*、英国、フランス、ベルギー、スペイン、オランダ、
ドイツ*、スイス*、インド*、メキシコ、パナマ、ベネズエラなど
4期制 アメリカ*、カナダ* など
※国際学校は、ほとんど9月開始。ただし、2期制をとる学校のほぼ半数と4期制をとる学校は、8月開始

KOMET「アメリカ現地校適応教材シリーズ」

ビデオ教材 『HIROSHI Goes to American School』
(現地校への転校前のトレーニング・セット)
※学校生活のようす、授業中に使う言葉・聞く言葉などを実践訓練
現地校学習セット(小学生用)
「キーワード・プラクティスブック算数編」
 (算数の授業中に教師が使う言葉に、早く慣れさせる)
「ESLグラマー・ワークブック1&2」
 (子どもが実際に使う教材に日本語解説を付加)
現地校文化・常識セット(低学年用)
「アメリカン・カルチャーブック」
「図鑑 アメリカン・ライフ(学研)」
「アメリカ 50州パズル」
『お母さんのための現地校英会話プラクティスブック』
(何かと親の出番の多い現地校で、実際に役立つ手引き)

現地での手続きと学校生活

日本人学校への編入学手続きは、日本から持っていった「転学書類一式」とパスポートがあればできる。住居は入居予定の住所さえわかれば、仮住まいからの通学も認められるし、不明なことは何でも聞けばよい。すべて日本語で手続きできるので安心である。日本人会が設置母体であることも多く、その場合は日本人会の会員になることが入学資格となることを知っておきたい。
私立在外教育施設への編入手続きは、日本人学校とほとんど変わらないが、編入試験があることや寄付・募金を要請されることなどを知っておく必要がある。
現地校・国際学校への転入手続きは、ともかくパスポートと「予防接種証明書」「在学証明書」「成績証明書」を持って、学校を訪ねてみることである。学校や地域によってさまざまな条件や資格を設けていることが多く、夫婦そろってか、また通訳のできる人と一緒に行くとよい。場合によっては試験もある。保護者は学校への理解と協力(ボランティア活動、寄付・募金、父親のPTA参加など)を求められるが、生返事をしたり好い加減な気持ちで安請け合いしたりすると、あとで困ることになる。
補習授業校は、現地校・国際学校に通い始めてから、ゆっくり考えることである。週一回程度だし、結構遠隔地にあったりするので、一度見学に行ってみるとよい。編入試験はなく即日編入も可能だ。もちろん入学手続きは日本語でできる。

学校が始まったら

日本人学校では、ほとんどの在校生が日本からの転校経験があるので、転入生の気持ちをわかっている。また、スクールバスで兄弟姉妹が一緒になることもあって、学年が違う子とも仲がよく、学校全体が家庭的な雰囲気にある。たまに「いじめ」などがないわけではないが、解決は国内の学校よりもはるかに早い。何しろ、国内選考で5~6倍の競争率を勝ち抜いてきた優秀な教師がそろっているのである。子どもの様子が変だと思ったら、すぐに担任に相談することだ。また、PTA活動に積極的に参加すると、子どもが学校でどう過ごしているかを垣間見る機会が増える。
現地校・国際学校に通わせる場合は、母親もしばらく一緒に通ってみることを勧めたい。わからない言葉の世界で一日、子どもがどれだけ辛い思いをして過ごしたかを共感してやれることが大事なのである。「トイレに行きたい」といったサバイバルな言葉を教えていなかったことにも気がつく。図書室の本の整理など言葉が不自由でもできるボランティアがあるので、積極的に挑戦していきたい。学校のどこかに母親がいると思うと、子どもも安心である。
現地校・国際学校の教師の考え方と、日本の教師の考え方との違いにも注意したい。転入した子が日本で勉強していたときの成績よりも、その子が何に興味があり、どんな特技をもっているか、といったことを知りたがる傾向が強い。日本の担任教師なら、その子の育ってきた環境や家庭の状況から成績の推移、課外活動の様子まで資料に目を通してこそ指導ができると考えるが、現地校などでは提出した成績表に目を通していない教師もいる。考え方自体がドライで、子どもの内面に感情移入することも少ない。
日本人の子どもは言葉だけでなく自己主張も下手なので、辛いことや理解できないことなどを、なかなか教師に伝えられない。保護者として、子どもが日本ではどういう学校生活を送っていたか、何に興味・関心があり、どんな特技があるか、そしていま何に困っているかを教師に伝えるように努力したい。そうすれば、教師はその子の得意なことを生かして指導し、自信をつけさせることができるのである。しばらくは、子どもと教師の「心の橋渡し」になるよう心がけたい。「海外子女教育手帳」も活用しよう。

心身の健康をサポート

子どもは新しい環境に早く馴染もうと精一杯の努力をしているので、健康面にも気をつけることが大事だ。毎朝、表情や食欲、態度などを観察するほか、それとなく便の色や回数なども聞いてみる。半年くらいは行儀作法や手伝いなどを大目にみて、甘えさせてあげることも必要である。
不幸にして不登校になった場合も、どっしりと構えていることだ。子どもはサインを出していたはずだが、見落としていたことを悔やんでも仕方がない。子どもが話しやすい雰囲気をつくり、ひたすら聞き役に徹してみよう。ただし、学校の担任やカウンセラーには連絡を入れ、相談し続けることが必要である。とくにアメリカの現地校には「不登校」の概念がなく、「親の不注意・怠慢の表れ」と考えられているので、学校からの指示に父母が応じなかったりすると警察が介入してくることも知っておこう。
年齢(学年)が上がるほど学習用語も内容も難しくなっていくが、11歳くらいからは心理的にも難しく不安定な年頃になる。学校を選ぶときに本人が納得するまでよく話し合っていれば、比較的安定が保たれるので、親が勝手に学校を決めたりしないことだ。また、すべてを忘れて没頭できる趣味をもたせるのも有効である。スポーツでも音楽でももの作りでも、得意なものが何かあれば気持ちは落ち着く。
さらに、学校の行事(学園祭などの衣装作り、物品調達、会場設営、日本文化紹介の手伝いなど)や友達づきあい、部活動など(車での送り迎え、用具の調達など)を親がサポートすることも大事だ。治安上の問題から、親が連れて出ないと子どもは家に閉じこもるしかない国も少なくない。母親にだけ負担を負わせず、父親も分担したい。地域や学校の行事には、父親主導のものがかなりある。「父さんも自分のために頑張ってくれている」と感じることができれば、親子のコミュニケーションもとれる。

通信教育と補習授業校

海外の現地校や国際学校に通う子どもたちは、さまざまな文化・習慣を直に体験しながら学んでいる。彼らが帰国後、その体験を生かしながら日本国内の学習に適応できるためには、基礎・基本の学習がどこまでできているかが大きく関わってくる。
そうした基礎・基本の学習達成のために、海外子女教育振興財団の通信教育と補習授業校がある。一昔前は「現地校と通信教育と補習授業校の三重苦」などといわれて、子どもの能力の限界を超える学習量を強いていると非難されたこともあったが、現在では両者の連携の工夫を重ねて、かなり負担が軽減されている。2002年4月からは事情も大きく変わった。 まず、「財団の通信教育」(文部科学省補助事業)は、ITを利用したシステムに大幅にリニューアルされた。テキストと学習の手引き、添削問題、補助教材のほかに、朗読CDとマルチメディアCD-ROMが送られるようになった。日本国内で行われる実力テストとリンクした「力だめし」(年3回)で、日本の子どもたちと比べてどの程度の実力なのかが測れるようにもなった。インターネットを利用して、発展的な学習ドリルや調べ学習、教育情報などを入手できるし、日本人学校に通う子どもが受講できるようになったことも革新的である。 文部科学省は「補習授業校のための指導計画作成資料」として、学年ごとの「国語指導案集」「算数/数学指導案集」を世界各地の補習授業校に配布した。日本人学校にも配布され、教材精選・開発などに苦労している小規模校や、周辺地域への巡回指導に当たる教員の助けとしても活用されている。「指導案集」の特徴は、財団の通信教育と併用する効果を計算していることである。
補習授業校の授業時間は週4時間程度に限られているため、家庭学習での反復や練習がどうしても必要になる。そこに通信教育の教材を組み合わせていけば、大きな効果が生まれるのである。もちろん通信教育の教材は、それだけで完結できるよう構成されているのだが、たとえば補習授業校の指導に、通信教育のCD-ROMを「道具」として利用していくことが可能になった。
保護者にも「第二の担任」として家庭学習に協力してもらえる条件をそろえ、補習授業校もない僻地や、小規模の日本人学校で学ぶ子どもたちなども安心して学習できるようになった。通信教育のスクーリングとして、日本人学校や補習授業校を利用するかたちがあってもよいことになる。

子どもに適した通信教育

海外に展開する学習塾も、通信学習と組み合わせた指導に着手するようになってきた。少子化によって進学指導のあり方が変革を迫られるなか、難解な問題の解答力よりも基礎・基本に重点をおいた教材・指導法の開発に努力している。補習授業校や財団の通信教育が日本の学校用教科書を使う点は、子どもの側からすればメリットだが、学習塾の独自教材のなかには専門家をうならせる「優れもの」も散見されている。
子どもの出身地や海外在留期間、地域の条件、家庭環境など、すべてが多様化の時代になったので、その子に適した通信教育は個々に選ぶしかない。納得いくまで「体験版」を試してみるのもよい。大事なのは、無理のない範囲で継続して学習することだ。分量が多すぎたり添削締め切りが厳しすぎたりしたら、長続きしないから逆効果である。
就学前の段階では、日本語のビデオやCDなどを毎日聞かせることが重要であるが、6歳くらいからは「書き写し」や「話し合い」も大事になる。国際電話やEメールで日本の友達や祖父母などとのコミュニケーションをどんどんさせることもすすめたい。通信教育は、その話題や材料の宝庫だし、添削本部の教師も子どもたちとの交信を楽しみにしている。

通信教育機関

海外子女教育振興財団の
通信教育
http://www.joes.or.jp/tushin.htm
問い合せ=電話:03-4330-1345
E-mail:kyoiku@joes.or.jp
海外在住の小学生・中学生専用。小学1・2年=国語・算数・生活科。小学3年以上=国語・算数/数学・理科・社会。
月3,500円(維持会員企業・団体等は3,150円)
学研Vメイト http://vmate.niknak.ne.jp/
問い合せ=フリーダイヤル:0120-40-1177
E-mail:vmate@gakken.co.jp
パソコン利用の家庭学習システム。小学3年~6年=国語・算数・英語(初級・中級)。中学生=数学・理科・地理・歴史・公民・英語(初級・中級・上級)。
JOBAの通信指導
※2002年7月  アジア地域の教室名変更
http://www.jolnet.com/
問い合せ=03-5754-2240
E-mail:info@JOLNET.com
小学4年~6年=国語・算数。中学生=国語・数学・英語。小学生~高校生=作文/小論文通信指導・英語作文&エッセイ通信指導。世界各地の「JOBA教室」「JOBA京進教室」がスクーリング指導。
進研ゼミ
(ベネッセの通信指導)
http://www.benesse.co.jp/zemi/
問い合せ=電話:086-221-9710
E-mail:kaigai@mail.benesse.co.jp
1歳~高校生。教材は毎月送付。スクーリングはナシ。
小学館の通信添削学習
ドラゼミ
http://dorazemi.com/
問い合せ=フリーダイヤル:0120-510-395
E-mail:dorazemi@shopro.co.jp
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