安全対策(2)

住まいの安全

家の安全対策

海外赴任が決まり、さまざまな情報が集まり始めると、家族全員で話し合うことが大事になる。おたがいに、いまどこで何をしているかを把握しあう習慣を身につけ、得た情報は一緒に検討し共有しあうことが、家族の安全レベルを引き上げていくことになる。
自宅を構える場所は、防犯面を最優先で考えなくてはいけない。コンドミニアム(高層集合住宅。日本語の「マンション」)の場合、1・2階や最上階を避ける。前者はベランダや窓からの侵入が容易だし、最上階は屋上からロープで降りて侵入される危険が大きい。また、玄関前が周囲から死角になる住居も好ましくない。鍵やドアを壊しているところを見られないだけでなく、ドア越しに中の人間を脅していても、ほかの住人には気づかれないから、格好の標的にされる。一戸建てでも、門や玄関が周囲から見えない物件は避けたほうが無難である。
子どもの学校のスクールバスが自宅まで来てくれるかどうかも大事な要素である。玄関前まで来てくれると理想的だが、乗降地点が自宅から離れれば離れるほど、それだけ危険が増していくことに注意しよう。

玄関の防御

玄関のドアには複数の鍵とチェーン(またはクロスバー)、あるいはドアの外側にグリル(鉄製の格子扉)があるのが理想的である。なければ家主に断って自分で設置してもよい。宅配便や宅配ピザなどが届いたとき、チェーンをかけたまま配達人とやりとりできる。あるいはグリル越しにやりとりできる。隙間から配達帳票を差し入れてもらって受領のサインをして、戻しながら「ありがとう。そこに置いていってください(Thank you. Please leave it there.)」と言う。そして配達人がいなくなったのを確かめてから、素早く品物をなかに入れる。
グリルがない場合、ドアチェーンやクロスバーは必ずかけておく。ドアベルがなったら、すぐに玄関を開けずに「覗き穴」から覗いて、誰が来ているのかを確認する。配管修理屋などから「これから行きます」という電話があったりすると、ピンポンと鳴っただけで確かめずに開けてしまうこともあるが、この瞬間を狙った押し込み強盗が少なくない。チェーンやクロスバーで命拾いすることもある。
ともかく不用意に玄関を開けないことが大事である。子どもやメイドにも、それを徹底しておきたい。アメリカなど、玄関に「覗き穴」がない住居が当たり前の地域では、カメラ付きのドアフォンも利用できる。鍵を閉めたまま、相手の顔や周囲の様子を確認しながら応対できるので安心である。

その他の侵入経路

侵入経路は玄関だけではない。窓やバルコニーの外側には防犯鉄柵がほしいし、熱帯ならモスキート・ネット(網戸)も大家に要求してみるとよい。ただし、火災などの際に避難口も作っておく必要があり、その部分の施錠はしっかりしなければならない。もちろん、窓やバルコニーの扉にも鍵を設置する。 防犯鉄柵がない場合、狙われれば脆い。とくにガラス窓だけの場合は、警報装置をつけたほうがよいし、モスキート・ネットも結構「障壁」にはなる。バルコニーや庭には常夜灯を設置し、人が潜んでいられないようにしておこう。住人のなかのティーンエージャーが、各部屋に侵入して窃盗を繰り返していた例もある。戸締りはきちんとしておく必要がある。
また、コンドミニアムやコンプレックス(公寓、別荘住宅地のたぐい)には24時間体制でガードマンがいるが、これはあまりあてにできない。たいして見回りもしないから、正門の詰め所から死角となるあたりの塀を越えて侵入されるし、居眠りしているガードマンも多い。ここ数年の強盗致死事件は、主にコンドミニアムで発生しているが、ガードマンは真っ先に逃げている。それでも毎日挨拶をして通っていると、危険度はぐっと下がる。
なお、長期間家を留守にする場合は、近所の人に頼んで玄関の新聞を取っておいてもらったり、夜間だけ室内灯を灯すタイマースイッチなどをセットしたりして、留守であることがすぐにはわからないように工夫する。人が近づくと点灯するランプを玄関や窓の近くに設置しておくのもよい。

連絡網の構築

情報機器の準備

海外の駐在員事務所や工場などには、必要最小限の人員しか配置されないので、基本的には何でもこなす覚悟が必要となる。単に仕事の内容に関わることだけでなく、政情や犯罪、衛生事情などの最新情報も自分で収集しなくてはならない。そのための道具は、少し贅沢なくらいにそろえていくようにしよう。 電話は留守番録音やFAX受信が可能なものを備えるほか、携帯電話、自動車電話、トランシーバー、小型無線機、パソコンなど、できるだけ多くの手段を確保していく。テレビ・ビデオ関係は、MULTI(最低限PALとNTSC両用)を選び、CNNなどの有料回線とも契約しておくのが理想である。ラジオやラジカセは、短波も受信できるもの(3~5バンド)で、できれば周波数指定・自動追跡装置やタイマー付きのものがよい。
いまや情報収集の中心はパソコンになっているが、予備のパソコンも必要である。通信も通常電話、携帯電話の回線だけでなく、CATVなどの有線回線も確保されているとよい。プロバイダについても赴任国、日本、アメリカなどいくつかの国に分けておくと安心である。駐在員が複数いるときは、これらを手分けして契約してもよい。まだ高価だが、衛星電話や大型無線装置も事務所に一台あるとよい。
ちなみに、トランシーバーの到達範囲は、最大出力のものでも数百メートルと限られるものの、複数のポイントに情報を瞬時に伝達できる(ダイヤルしなくてよい)強みがある。また内乱や災害時に電話回線が不通になった場合も、かなりの交信能力を発揮する。

課題はソフト面

いくら情報機器や回線を確保しても、使いこなせなくては意味がない。日ごろから夫婦で一緒に練習して、使用方法に慣れておく。テレビやラジオのニュース、市場で聞いた情報など、夫人からの一報が最も早いことが多いし、緊急時に手分けして情報収集を行うこともできる。また、「どこで、どういう情報が得られるか」についても、電話・FAX番号とともに一覧表にまとめておこう。
さらに大事なのは、「誰が、誰に、何を伝えるのか」という組織内の情報経路と、「誰が、誰に、何をさせるのか」という組織の司令系統を、明確に定めておくことである。安全情報に関する現地サイドの責任者と本社サイドの危機管理責任者とが明確でないと、情報が錯綜したり迷子になったりしてしまう。誰が決裁するのかが不明確だと、対策なども立てられない。
企業・団体などでは必ず、「第一報の受信者」を定めている。通常は24時間、いつでも連絡がとれる体制(日曜・祭日も可)となっているので、夫人や留守家族にも連絡先を教えておこう。内乱や災害時に「全員無事」の第一報が届くかどうかで、会社の損失には大きな差が生じる。不幸にして救援を要請する場合も、「第一報の受信者」に名指しで連絡を入れないと、結局手間取ることになる。

連絡の複線化

連絡ルートは情報機器・回線を縦横に駆使していけば、いくらでも組み合わせが考えられるが、内乱や災害時にはかなりのものが使えなくなる。回線がパンクするまでに、できるだけ多くの情報を集め、日本の本社(危機管理責任者)に連絡を入れることを肝に銘じておこう。
直接連絡だけでなく、近隣の国にある駐在員事務所や工場、また在外公館、日本人会・日本人商工会議所、日本の航空会社・保険会社などを経由して連絡を入れてもよい(発信日時・発信場所を明記のこと)。日本側の「第一報の受信者」さえ明確であれば、結構引き受けてもらえるし、秘密も保たれる。要は連絡ルートを思いつくだけリストアップしておくことである。

緊急連絡リスト

○夫の勤務先、日本の本社(危機管理責任者)、近隣の駐在員事務所・工場など
○在外公館(日本大使館・領事館など)、日本人会、日本人商工会議所、国際協力事業団など
○子どもの学校・学級担任自宅・親しい友達宅など
○危機管理の専門業者、損害保険会社の現地事務所・提携アシスタンス会社、日本の保険代理店・航空会社など
○赴任国の警察署、消防署、航空会社、コンサルタント会社など
○赴任国の医療機関(ホームドクター・救急病院など)