引越しの準備

荷物の仕分け

日本に残す荷物と海外へ持っていく荷物の仕分けは、引越しに慣れた人でも頭を悩ますところだが、勤務先の規定範囲内で必要なものを持っていくしかない。すべて持っていこうとすれば、その分輸送費は高くなるし、量が多ければ多いほど課税対象にされる傾向が見られる。
海外引越しとその後の生活条件を考えると、海外に持ち出したものは破損・紛失・盗難の危険性がかなり高いといえる。
海外に持っていくかどうかの判断にも、それを基本に据えておくことが大事で、次のように自分たちの荷物を仕分けしてみよう。

仕分けの基準

これだけは失いたくないもの

貴金属や高価な家財、家の権利証といった重要書類などで、国内の親戚などに預かってもらうか、銀行の貸金庫に預ける。

赴任直後から必要になるもの

ビザ(滞在許可)関係の書類、保険・医療関係の書類、子どもの教科書、「転学書類一式」または英文成績関係の書類、救急医療セット類などは赴任直後から必要になるし、紛失の危険を最小限に抑えたい。これらは手荷物で携行するしかない。

いつも持っていたいもの

「たとえ壊れても痛んでも、あるいは紛失・盗難に遭ってもかまわないから持っていたい」と思うもので人によって異なる。
台所用品や日用品、使い慣れたカメラや趣味の道具、思い出のアルバム、CD・MD・ビデオなどの記憶媒体などだ。もし親戚などに重要書類を預ける場合、実印だけは自分で持っているようにする。基本的には船便で送るものだが、ものによっては手荷物で携行したほうがよい場合(カメラ、ビデオカメラ、包丁、工具類など)や、航空便で別送したほうがよい場合もある。

使うのはここ数年だけのもの

子どもの衣服・学用品・玩具、下着などの消耗品の類で、船便で送る。ただし、教科書は手荷物での携行を忘れないこと。

海外だからこそ使うもの

あると便利で、現地で気に入るものを探すのが大変なもの(上記の「いつも持っていたいもの」以外)は少なくない。パソコン、短波ラジオ、CDラジカセなどの情報機器(安全対策の道具としても大事)および変圧器、スポーツ用品などである。ノートパソコンなどの精密機器は、手荷物で携行したほうが安心である。

帰国したときに使いたいもの

赴任国に持っていきたくはないが、帰ってきたときに使えればうれしいものである。タンス、食器棚、本棚、ピアノなどの大型家具、ストーブ、絵画、壷などで、倉庫やトランクルームに預ける。家を賃貸に出す場合、家具付きで借りてもらう方法もあるが、嫌がられることが多い(段ボール箱1個だけでも置かせてもらえると、とても助かるが…)。電熱器関係(コタツ、アイロン、湯沸し器、オーブンなど)以外の家電製品は、数年放置すると使えなくなるものが多く、修理部品もなくなるので、基本的には誰かに譲るか廃棄するしかない。「捨てるくらいなら海外に持っていく」というのも一つの判断だが、電圧やプラグ、周波数の違いなどがあるので、故障もしやすい。

荷物の通関事情

船舶貨物(船便)および航空別送荷物は、日本の港・空港を出る際と赴任国の港・空港を通る際に、検査を受ける。日本を出る際は比較的問題が起こらないものの、「ワシントン条約」(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)で輸出入を禁止されている動植物やその加工品は、没収される。
たとえば、象牙・珊瑚・べっ甲など、およびそれを使った置物・装飾品などは、いずれの国でも持ち出し・持ち込みができない。
到着地の税関では、通関の際にすべての梱包を開けて検査することが原則とされている。梱包明細書と内容物とが一致していること、次項で説明する輸入禁制品がないことなどを検査される。
かつては荷物の中身が盗まれることもあったが、最近は発展途上国においても、ほとんど盗難はない。万一、盗難にあったり破損したりした場合は、保険で求償される(したがって、お金に替えられないものは、入れておかないほうが無難である)。
なお、赴任先の通関事情によって、必要書類や課税対象品目、輸入規制品などが大きく異なる。とくにビザの取得の有無で通関そのものが許可されなかったり、通関にオリジナルのパスポートが必要(当然、本人が通関時に赴任国にいなければならない)であったりということは、珍しいケースではない。引越業者の担当者に、赴任国の通関事情を確認しておこう。

輸入禁制品に注意

武器、弾薬、銃器・火器・刀剣類、麻薬、危険な薬品、石油・ガス、ポルノ、またワシントン条約規制の対象になる物などは、引越荷物に入れることができない。
さらに、赴任国・地域が宗教上の理由や産業育成の目的で輸入を禁止したり、関税障壁を設けたりしているものもある。
しかし、法律上は禁止・制限しているが何とかなりそうな、いわゆる「グレーゾーン」(120頁)もある。新品の家電製品(とくにパソコン)や化粧品、食料品などは微妙な点があり、それらをうまく持ち込めるようにアドバイスしたり、細工を施したりするのも引越業者の腕の見せどころである。心配なものは相談してみるとよい。
なお、海外引越荷物は「現在使用中の個人のもの(パーソナルプロパティ)」であることを前提に「原則的に免税扱い」になっている。新品の品物は袋や箱から出して、使用中のものと混ぜておこう。

輸入禁制品のグレーゾーン(注:赴任国外からの持ち込が禁止されるもの)

規制の理由 法律上では禁止とされる商品の例
1.公安上の理由
公序良俗に反する物品、 放射性物質など
アルコール類(イスラーム諸国、台湾、米ワシントン州、コスタリカ、伊、英、ギリシア、ノルウェーほか)、ヌード写真のある書籍・雑誌(イスラーム諸国、シンガポール、米オハイオ州ほか)、特定の宗教・政治信条などを宣伝する電子媒体(ビデオ・DVDほか)、みだらな品物(シンガポール、米中西部諸州ほか)など
2.公衆衛生上の理由
不潔な物品、分析用品、毒物など
白い粉末の薬、赴任国が未許可の薬品、「医薬部外品」、たくわん・奈良漬などの漬物など
3.動植物保護の理由
生きた動物、植物、 生の食材、赴任国特産 品など
肉(米諸州、英、墺、ノルウェー、サウジアラビアなど)、魚(米加州、墺)、野菜(米諸州、墺、ノルウェーなど)、果物(米加州、マサチューセッツ州)、その他蜜蜂、昆虫、カタツムリ、ランの花、花束、盆栽、麻製品、米(タイほか)など
4.銃砲刀剣類取締り上の理由
武器およびその物品、 火薬、ブタンガスなど
モデルガン、スタンガン、鋏、包丁、切り出しナイフなど百円ライター、花火、爆竹、号砲用火薬など
5.専売上の理由
貨幣、タバコ類など
古銭、変形コインなど(注:偽造・変造は不可)タバコ(豪)、葉巻(伊、ギリシア)など
6.その他の理由
コイン・金塊、商標法・ 著作権法に違反する物品、 富くじ類、電気機器など
偽ブランド品、サッカーくじ、懸賞付きハガキ、マイコンなど。電気器具=カラーテレビ(インドネシア)、短波ラジオ(タイ、サウジアラビア)、自動車電話(スウェーデン)、通信機器(サウジアラビア)など。 エンジン(アルゼンチン)、オートバイ(メキシコ)など

引越荷物の保険

飛行機や船で何日もかけて運ばれる引越荷物は、赴任先へ届くまでの間に何が起きるかわからない。積み降ろしや輸送中の万一の事故に備えて、引越荷物には必ず保険をかけておきたい。保険は、梱包明細書(パッキングリスト)もしくは保険会社が用意する保険申請用紙に、品目ごとに金額を設定しておく。例えば、「シーツ5枚、1万円」など。
荷物が到着したあと、損傷や紛失が認められた場合は、ただちに引越業者の現地連絡先に連絡して、事実関係を確認してもらうようにする。損傷している場合は、念のため写真を撮っておこう。引越業者は、損害保険会社と代理店契約を結んでいるので、保険会社への連絡など必要な手続きをとってくれる。この保険は、日本で荷物を業者に渡した時点から、赴任先の指定の場所に配達されるまでの間に生じた損害についてカバーしている。
保険金は、電気製品など修理可能なものは修理の実費が支払われる。修理不可能なものや紛失したものは、その荷物にかけられた保険金額(梱包明細書の保険欄)にもとづいて支払われる。一般的に、海外引越荷物の輸送保険は「オールリスク」という形式でかけられ、輸送中に起こった破損・損傷などをすべてカバーする。ただし、カビや錆など品物自体がもつ性質の変化などによって生じた損害、電気製品などの誤操作による故障、外傷が認められない損害などについては、補償の対象外となっている場合がほとんどである。保険についても、引越業者の担当者によく内容を確認しておこう。
ちなみに携帯荷物(航空手荷物)は、海外駐在員総合保険など(生活用動産の特約付き)に入っていれば補償されるが、スーツケースなどに入れておいた現金・有価証券などが紛失した場合は補償されないので注意が必要である。