海外赴任者数別の人員配置と実務

海外人事の人数や業務領域は総赴任者の人数によって変わります。赴任者が小規模の場合(10名以下)、海外人事という明確な区分が無い場合が多いです。赴任者が発生すれば慣れない手続きに追われる一方、採用面談のサポート、人事評価・処遇決定、社内プロジェクトなどを行います。つまり、本業のほとんどが国内業務でありながら、年に1回か2回発生する海外赴任者の手配を行うケースがほとんどです。

総赴任者が100名~300名程度の中規模になると、海外人事やグローバル人事として独立した組織が生まれます。この人数規模では1名~3名の社員が専属的に対応することが多くなります。1年間で新たに発生する赴任者は20名~50名ですので、人事異動のシーズンには瞬間的に業務負荷が高まります。

総赴任者が300名を超えて大規模になると、業務ごとに専任担当者を配置する企業が増えます。例えば、ビザ担当、給与担当、引越担当~などです。企業規模によっては、エリア別(北米、アジア、欧州~など)に担当者を配置するケースもあります。

海外赴任者数規模別の課題とは

小規模
  • やり方が分からない、前のやり方が今も正しいのか分からない
  • 前に手配していた担当者が退職している
  • 慣れていないので手配完了まで時間がかかる
中規模
  • システム投資が行いにくい規模感、効率化が図りにくい
  • ピークに合わせて人員を配置するので、平常時は余剰になりがち
  • 経験豊富なベテランが業務をブラックボックス化し、退職リスクを高める
大規模
  • 業務は定型化されているが、業務に従事する一定数の人員は常に必要
  • 健康管理/一時帰国の回数管理/経費精算など、赴任後の業務量が膨大
  • 効率化は図れるが、赴任者へのサポートレベルも平均的に落ち着いてしまう

これらのように、総赴任者の規模によって社内の体制が異なるため、抱える課題も多岐にわたります。
課題の中でも緊急性のあるものは、発生した際の対応に時間と労力がかかるため、事前の対策を整える企業が増えています

緊急性のある課題

多くの企業で発生する、緊急を要する課題には下記のようなものがある。

  • 取得予定のビザが発給されない、または取得スケジュールが大幅に遅延する。
  • ベテラン担当者が突然の退職、マニュアル化されておらず業務の引継ぎが困難になる。
  • 進捗管理をエクセルで行っていたが、手作業で更新していたため致命的なミスが発生する。

これらの課題は下記に挙げる要素が影響することが多くあります

  • 海外現地側のビザルール変更情報など、年に数回の実務作業なので最新情報が得にくい。
  • 件数が少ないことで仕組化がしにくい、または件数が多いことで属人的な業務になりがち。
  • 国内の従業員に比べると海外赴任者の人数は少ないため、システム化に踏み切りにくい。

大きなプロジェクトや経営方針の転換などがない限り、海外赴任者数が翌年に倍増するというケースは少ないです。そのため、これらの課題が長年解決されないままの企業が多いという実態があります。

海外赴任者から見る人事総務部

海外赴任者が発生した際、企業が着任までのサポートを行います。最近では海外赴任者の年齢が低くなっていることや、海外赴任に対する多様な考えが生まれていることで、海外赴任者本人が会社へ要求するポイントが以前より変化している企業もあるようです。

2000年~2010年
  • 単身赴任が多い(渡航先での配偶者やお子様の問題はあまりない)
  • 会社に頼らず自分で手配する方が多い(人事総務部より本人が手配を熟知)
  • 拠点立ち上げや合弁設立など、ミッション性の高い目的があった(本人の目的意識が高い)
2010年~
  • 家族帯同者が増える(現地での医療機関、学校などの問題が増加)
  • 会社が海外赴任者の送り出し業務全般を行うようになった(会社のサポートを頼る方が増加)
  • 人事ローテーションの中で、交替要員としての赴任が始まる(目的意識がやや弱まるケースがある)

ここ数年の海外赴任者を取り巻く社会的な環境は変わり、海外赴任をネガティブにとらえる社員も増えているという話もでてきました。例えば、「両親の介護」、「共働きの継続(配偶者のキャリア尊重、世帯収入の維持)」など、簡単には解決できない環境に身をおかれている社員も少なくありません。このような状況ゆえに、会社からの手厚いサポートを求める海外赴任者が増える一方で、人事総務部門は労務環境の変化、人材不足、効率化の追求など、「海外赴任者に対してどこまでサポートをするか」という問題に対して向き合わなくてはならない時代になっています。

また、会社の海外展開の状況、赴任者数によっても海外赴任者が感じるものは異なります。総赴任者が300名、年間で数十人の海外赴任者が発生する企業の場合、海外赴任自体が特別なものではなくなっていることがあります。このケースでは日本から送り出すこと自体に問題はないことが多いのですが、実は現地側での会社での人間関係(本人、家族含め)に問題があることがあります。

総赴任者が50名以下の企業になりますと、海外赴任自体に特別感があることが多くなります。このケースでは、何回も出張などをされていたり、海外赴任を前提にしたミッションの延長で海外赴任される方はよいのですが、そうでない場合は人事総務部への依存度が上がることがよくあります。前者の場合、ビザや予防接種、現地情報については人事総務部より本人の方がよく知っています。この場合、人事総務部は給与/処遇についてしっかりとした対応をとれるように準備が必要です。

一方であまり赴任先との接点がない場合や、本人がそもそも海外赴任に乗り気ではないとき、「会社がサポートしてくれる」という意識が強く働きます。そのようなケースに限って、人事総務部門のサポート体制が充実していない、初めての赴任国なので手配が後手に回る…などが発生し、赴任者の不満が高まってしまいます。

海外人事が取り組むべき6つの視点

❶海外赴任業務のシステム化

実務担当者が退職・休職して業務が滞ることが無いような社内体制作り。また、進捗管理やコスト管理などを一元集約的に管理できるウェブシステムの構築。

❷海外赴任業務の可視化

これまでは、゛実務担当者の頭で理解されていた“業務を棚卸し、業務仕様書として明確にしておく。また、業務仕様書には記載しきれない「ケースバイケースの対応や都度判断のポイント」などを網羅した業務マニュアルの作成。

❸海外赴任コストの適正化

海外引越、トランクルーム、健康診断、予防接種、航空券など海外赴任に関するコストが適正なのを確認する。ただし相見積もりは、担当者と海外赴任者本人に対する対応時間が増えることがある。また年間に発注できる規模が小さい場合、価格交渉力が低いことがあるので注意。

❹海外赴任規定の点検

海外赴任規定が長年見直されていない、あるいは規定は変えていないが運用(都度判断)で対応している場合は定期的な見直しが必要。引越物量やトランクルーム容量など、費用が大きく発生するものについては業界水準などを参考に自社規定が適正なのかをチェックする。

❺海外給与・処遇制度の点検

海外給与の設定(購買力補償方式や別建て方式)が正しく機能しているか、定期的に点検する必要がある。万全だと思っていても、海外赴任者は現地で他社の海外赴任者との交流の中で自社の給与制度や処遇制度を比較してしまうことがある。海外赴任者の不満が募ると、仕事への意欲が低下したり、最悪の場合は離職のきっかけになることもあるので慎重に対応する。

❻海外赴任者へのサポート

30代の海外赴任者が以前より増え、家族のケアなど会社としてどこまで関わり合いを持つかの線引き(ガイドライン)を持っておく必要がある。総務人事部としては従業員満足度を上げたいという思いの一方で、「なんでも相談してください」というスタンスでは回答を準備する必要が出てきてしまい、逆に調べる時間が増えてしまい、回答が遅くなってしまうことで逆に満足度を下げてしまうことにもなりかねない。

❼海外赴任者へのサポート

企業によっては、海外赴任手配の窓口が分散しており「一人一人の負担感の低減」と引き換えに「全体の進捗が見えにくい」、「海外赴任者からすると誰が担当かわかりにくい」という事態を招いている。従って、最近の労務環境改善や間接部門の生産性向上のトレンドでは「自社でやるべきこと、そうでないこと」をしっかりと切り分ける会社が増えている。この切り分けにおいて、外部の専門機関(海外赴任手配を代行する会社)の活用を始めている企業も数百社まで増えている。

社内でやること、やらないことの整理

海外赴任者が発生した時の送り出し業務は複雑です。例えば日本で働く社員の手続きは、「日本のこと」だけを考えればよいのですが、海外赴任業務は「日本だけではなく、赴任国・赴任都市のこと」まで考えていく必要があります。つまり、海外赴任者の送り出し業務は国内従業員の諸業務に比べるとわずかな業務量ですが、1つ1つの業務は様々なパターンが発生するため非常に手間がかかります。

また多くの企業では、海外赴任者の手配業務は年間で数件から数十件ということが多いため、国や都市ごとの業務ノウハウを蓄積することが難しいという実態があります。仮に蓄積できたとしても、アップデートの頻度(同じケースが発生する頻度)も多くないので、逆に「前のやり方で手配を進めたが、ルールが変わっていて最初からやり直しになった」ということも少なくありません。

また、人事総務部が行う様々な業務の中でも、海外赴任手配は発生頻度が少ないという点からも、専属の担当者を配置していないケースがほとんどです。このような状態で海外赴任者が発生すると突然業務量が上がるため、ルーチンワークに投下していた時間を調整し、残業時間が増加するなど業務の安定化が図れないという側面があります。海外現地法人とのやり取りには時差も発生するため、実際の作業量だけではなく精神的なストレス(言語の問題、コミュニケーションの問題)も発生します。

これらの状況を解決するためには、外部の専門機関を活用する方法があります。赴任者が発生した際の必要な手続きを、人事総務部、海外赴任者本人と家族、現地法人の間に入ってサポートします。もちろん、事前に企業の海外赴任規定を読み込み、業務マニュアル/業務仕様書の作成、海外赴任専用のウェブシステム構築を行います。

会社では「給与・処遇に関すること」、専門会社には「業務に関すること」という形で業務の整理を行います。このような整理を行うことで、人事総務部門の問題解決だけではなく、海外赴任者本人とその家族のケアも同時に解決します。お子様のこと、現地の医療のこと、その他心配なことを会社に相談するのはなかなか難しいことですので、この部分を外部の専門会社に任せることで従業員満足度を高めることも副次的な効果として期待できるでしょう。

  • 海外人事が
    取り組むべきこと