知っ得ポイント海外赴任・出張で困らないために知っておくと便利なノウハウをご紹介

持ち家を賃貸する

家を貸すということ

赴任している間に期間限定で家を貸し出し、家賃収入を得ることができれば大きなメリットである。月々のローン返済を家賃収入でまかなっている赴任者も多い。もっとも、これは自宅を購入した時期によっても事情が変わってくる。1980年代前半まで(バブル期以前)と、90年代後半以降に購入した人の大半は、家賃収入でローン返済が可能だが、バブル期に購入した人はそうはいかないだろう。
苦労の末に手に入れた、あるいは親の代から住んでいた愛着のあるわが家を他人に貸すのは、ある程度の勇気もいる。「どんな人が住むのだろうか」「丁寧に使ってくれるだろうか」「期限がきたらきちんと明け渡してもらえるだろうか」など、心配や不安の要素は考え出したらきりがない。
家を貸して家賃収入を得ることは、「事業」である。たとえマンション(海外ではコンドミニアム、アパルトマンなどと呼ぶ)の一室といえども借り主との契約関係になるし、配管やエアコンなどに不具合があれば、貸し主の負担で修理する責任がある。また、いくら自分たちが大事にしているものであっても、他人には邪魔だったり気味悪く感じるものだったりする場合、ほかへ移すか処分しないと借りてもらえない。
一部の地域を除いて、ここ数年、賃貸市場も物件の供給過剰と家賃の下落が続いている。借りる人に気に入ってもらえるような「経営」努力をする一方、ビジネスライクに割りきることもまた必要である。

家を貸すことのデメリット(リスク)

他人に家を貸そうと自分で住んでいようと、人が何年間か住めば、それに応じて内装が損耗・汚損する。まして、暮らし方や習慣などが異なる他人が住むのだから、ある程度の傷みや消耗は覚悟するしかない。

たとえば、4年間の海外赴任を終えて戻ったときに、家の内部が4年前と同じ状態であることはあり得ない。その間の家賃はすべて貯蓄しておいて、帰任時にその資金で内装を総リフォームする人もいる。要は「4年貸したら、内装が新築同様になった」と喜べるかどうかの気の持ちようである。「安く貸したのに」とがっかりしてもしかたがない。

家を貸すことの最大のリスクは、不良入居者の問題であろう。家賃の滞納、契約違反行為(ペットの飼育など)、明け渡しの拒否などが考えられる。とくに長引く景気の低迷から、民間賃貸住宅の家賃滞納率は上昇傾向にあるようだ。いずれも、高度なトラブルに発展してしまった場合は、海外にいる赴任者本人が解決することは難しい。自宅の賃貸運用を不動産業者に依頼する際は、こうしたトラブルにどこまで専門的に責任をもって対応してくれるかを、よく確かめてから依頼するようにしよう。

原状回復について

先にも述べた通り、持ち家を人に貸し出し、その対価として家賃収入を得るからには、ある程度の自然損耗や経年変化による内装の汚損などは覚悟しなくてはならない。

いわゆる賃貸借契約には、通常「原状回復」の条項がある。借り主は契約終了時に、物件を原状に戻してから貸し主(オーナー)に返還しなくてはならない。昨今は、原状回復の範囲をめぐって借り主と貸し主の間にトラブルが発生するケースが増加し、マスコミなどでもしばしば取り上げられている。 要約すると、流れは借り主(消費者)保護に動きつつあるということである。たとえば、レンタカーを借りた場合、使用後にタイヤが磨耗したからといって、その交換費用を請求されることはないし、洗車費用を請求されることもない。そうした通常使用による消耗や汚損は、すべて借り主が支払う賃借料に対価として含まれている、という考え方である。

持ち家の賃貸に当てはめると、「ハウスクリーニング費用や壁紙の変色、畳・襖(ふすま)・障子などの変色や摩耗などを、原状回復費用と称して借り主に請求することはできない」という考え方になっている。賃借人に対して原状回復費用として請求できるものは、賃借人の故意・過失、その他通常使用の範囲とは認めがたい損耗、損傷などになる。これらは、不動産業者や管理会社などに対して「ガイドライン」というかたちで行政指導が行われている。

貸し出すための必要経費

海外赴任者のほとんどは、不動産業者や管理会社などに業務を委託している。委託する際は、「業者がどこまでやってくれるか」など、業務の範囲や原状回復に対する明確なルール、システムを持っているかどうかをよく確認するようにしよう。

「持ち家を貸し出して賃料収入を得るための必要コスト」というものがある。まず、賃貸市場に供する商品として最低限の体裁は整えなくてはならない。一般的には、事前のハウスクリーニング、畳・襖の交換などの修繕コストが考えられる。このほかにも、内装の状況によっては床や壁クロスなどの工事も必要な場合がある。

これらは、家を賃貸する場合のルールというよりも、賃貸市場において入居希望者が「借りたい」と思える状態かどうかの判断材料となる。築年数が浅く、内装などの状態も良好であれば、ほとんど手を入れずに募集することも可能かもしれない。逆に、建築後10年以上経過していれば、それなりの初期経費を覚悟する必要があるだろう。

賃貸期間中、貸し主は物件の維持管理の費用を負うことは、すでに説明した。具体的には、給水・排水管、給湯器や給湯管、ガス管、電源配線などの基本的な設備および装備の維持・修理費用、一戸建ての雨漏りの修理などが考えられる。業者に賃貸運営の業務を委託した場合には、業務の委託費と毎月の賃料から一定率の管理料が必要となる。

スムーズな明渡し

ひと昔前は「家を一度人に貸すと出ていってもらえなくなる」という言葉をよく耳にしたが、近年はかなり状況が変わってきた。法的な整備が進んだほか、持ち家を期間限定で貸し出すことに社会的な認知が浸透してきたことが挙げられよう。

つまり、定期借家法の施行により、一定の契約条件のもとで「更新のない賃貸借契約」を交わすことが認められて、海外赴任者にとって「居座り」のリスクが大幅に軽減されることになった。ただし、定期借家法の適用を受けるための要件を満たした契約書を締結しておくことが必要なので注意しよう。不動産業者などに業務を依頼する場合、その仲介者がきちんとこの法律を理解しているかどうか確認したほうがよい。

家を貸す際の届出

住宅金融公庫融資を利用している場合

住宅金融公庫は、自ら居住することを前提とした低利の公的融資のため、融資を受けた住宅を長期間留守にすることや、人に貸して賃料収入を得ることは認められない。ただし、転勤などのやむを得ない理由による場合は、例外が認められている。

その場合は「融資住宅留守管理承認申請書」の届出が必要で、申請書は公庫融資の窓口になっている銀行などの金融機関で入手できる。必要事項を記入のうえ、転勤を証明できる書類を添付して金融機関に提出すれば手続きは完了である。届出をしないで住宅を賃貸すると、金融公庫から融資の一括返済を求められる場合があるので十分注意したい。

公団・公社の分譲物件、新住宅市街地開発法地域の物件の場合

これらも、住宅金融公庫と同様に自ら居住することを目的とした公的な住宅分譲事業のため、住宅を貸し出して賃料収入を得ることは購入時の売買契約で厳しく制限されている。

代表的な例としては、首都圏では多摩ニュータウンや千葉ニュータウンなどが挙げられる。しかし、この場合も転勤者には例外が認められている。公庫の場合と同様に、決められた届出が必要である
(マンションの場合は管理組合にも届け出ること)。

留守宅管理サービス

転勤中の持ち家の管理を専門に扱うサービスがある。一般には「リロケーションサービス」として認知されているが、このサービスは持ち家を賃貸にする場合と、空き家のまま管理してもらうサービスとに分かれる。

リロケーションサービスの業種が生まれて約25年になるが、各専門業者はこれまでの経験から、持ち家賃貸に関するさまざまな事例に対応(処理)するノウハウを蓄積している。赴任者にとって有力な業者選定の選択肢となるであろう。

滞納家賃の完全立替システム、明渡し不履行が発生した場合の対応、物件の定期巡回、期間限定の賃貸契約の締結などが、完成されたシステムとして提供されている。

知人や親戚に貸すことの良し悪し

持ち家を近所や勤め先の知人もしくは親戚などに貸すことは、手間のかかる手続きや業者に支払う業務委託料を考えると理想的であるように思うかもしれない。相手が気心の知れた人であれば、その安心感はたしかに大きなメリットであろう。しかし、相手が知人や親戚であるがゆえの大きな失敗例も数多くあることを十分考慮したうえで、持ち家の問題に取り組んだほうがよい。

たとえば、帰任後に家を返してもらったときの、室内の損傷などの清算(原状回復)問題など、ビジネスライクに知人、親戚の故意・過失による損傷を指摘しにくいことは、容易に想像できるだろう。極端な実例では、「従姉妹夫婦に家を貸した」「在外中に従兄弟夫婦が離婚し血のつながらない従姉妹の夫が賃借権を主張して明渡しを拒否している」などという話もある。これらは、専門の業者に委託して契約をしていれば防げるトラブルである。

「○○さんが住んでくれるのなら、家賃はいくらでもいいわ」と契約書も交わさずに、口約束だけで家の貸し借りをすることはあまり賢いやり方とはいえない。知人や親戚に貸す場合でも、専門業者を間に入れるのが理想だが、費用が気になるようなら最低限、賃貸借契約書だけでも取り交しておこう。

持ち家の賃貸事例 3年間貸したら収入はどれくらい? 例:首都圏のマンションを家賃12万円で3年間貸した場合 (リロケーション業者に委託した場合の例) 【収入】\4,080,000 120,000円×34か月 (空室期間2か月を控除) 【支出】\823,000 業務委託料・現況撮影料:265,000円 毎月の管理料(10%)合計:408,000円 リフォーム:150,000円 3年間の収入=3,257,000円