海外赴任リロケーションガイド赴任の準備方法や手順など、生活の基盤となる情報をご紹介

安全対策

安全情報を集める

海外赴任が決まったら、その国や地域における政情や犯罪、衛生環境・医療事情などについて情報を集めることが必須である。
特に日本人が、どういうトラブルに遭遇しやすい傾向にあるかを知り、自分たちなりの心の準備をしていきたい。基本はあくまで「自分の身体と財産は、自分自身で守る」である。

① 情報の性格に注意

一口に「安全情報」といっても、その範囲は多岐にわたり、項目を挙げていくだけでも相当な数にのぼる。ここでは、治安や犯罪、トラブルに対応するという側面から、情報収集について考えたい。
まず気をつけたいのは、どの機関が何を目的に発信しているかという点である。たとえば、外務省および在外公館(日本大使館や領事館など)が出す情報は「在留邦人保護」が目的だからこそ、判断は各自でする" 覚悟" がいる。
反対に、危機管理の専門業者が出す情報は、ともすると「恐いぞ」という不安感を煽ってしまいやすい。
日本在外企業協会や海外建設協会などは、企業・団体などの事業所向けに情報を発信しているので、どちらかというと経営者側の視点から情報が整理されている。
また、マスメディアによる情報は、とかく特異なケースを強調しがちである。

② 体験談から学ぶ

海外生活を経験した者は周囲にたくさんいるし、海外駐在経験者のボランティア・グループも各地に生まれているので、話しを聞くとよい。
体験者には海外で暮らしてきた実感があり、話を聞くときは、体験者が「何のために」「どのような気持ちで」話しているかに注意することである。
そして何よりも、成功談よりもむしろ失敗談のほうが役に立つ。この「危険(リスク)」に関する情報をできるだけ多く収集することである。

自己防衛対策

赴任前に、赴任国の犯罪事情や安全管理などに関する情報をしっかり入手しておくことが大事である。

① 出国前には

現地で安全な暮らしをするためには、基礎的な会話ができる程度の力も身につけておきたい。
赴任前にしておかなければならないことは、まず、赴任国に関するガイドブックやパンフレット、ホームページなどに目を通して、犯罪や治安の概況を把握しておくことである。
赴任国の一般的な安全情報については、外務省の「海外安全ホームページ」で入手できる。このサイトでは、世界各国の強盗などの犯罪事情、暴動やテロなどの治安情勢、また伝染病など保健・医療分野での安全管理に関する情報を提供している。
さらに、日本在外企業協会や国際協力事業団などでも、企業・団体などに対して危機管理や安全対策の情報提供、マニュアルの配布などを行っている。
最近は、海外赴任者を守るため危機管理の専門業者を活用する企業・団体が増えているようである。専門業者は、赴任前にさまざまな事前予防訓練を実施してくれる。内容は、危機管理体制の構築、マニュアルの作成、渡航先の危険情報の提供、赴任者教育、シミュレーショントレーニングなど多岐にわたっている。

② 赴任国では

赴任国に着き、新しい生活がスタートしたら、これまで以上に慎重な行動が求められることはいうまでもないが、一方では現地の社会に溶け込むための努力なども求められる。
海外では、日本で当たり前と思われていることが、実は当たり前でないことが往々にしてある。赴任国の民族や宗教、慣習などを理解していなかったばかりに、思わぬトラブルに巻き込まれたなどというケースも決して少なくない。
住宅周辺で最も注意しなければならないのは痴漢・誘拐・窃盗などである。門や玄関、窓などの戸締まりには十分な注意が必要である。鍵のかけ忘れなどないようにしたい。外出は、できるだけ昼間にして夜は避けたほうが無難である。
電車やバスなどの乗り物の中では、荷物の置き引きが頻発しているので、貴重品は肌身を離さないこと。歩道などを歩く場合は、スリやひったくりに要注意。

住まいの安全

① 家の安全対策

海外赴任が決まり、さまざまな情報が集まり始めると、家族全員で話し合うことが大事になる。お互いに、いまどこで何をしているかを把握しあう習慣を身につけ、得た情報は一緒に検討し共有しあうことが、家族の安全レベルを引き上げていくことになる。
自宅を構える場所は、防犯面を最優先で考えなくてはいけない。コンドミニアム(高層集合住宅、日本語の「マンション」)の場合、1・2 階や最上階を避ける。前者はベランダや窓からの侵入が容易だし、最上階は屋上からロープで降りて侵入される危険が大きい。また、玄関前が周囲から死角になる住居も好ましくない。鍵やドアを壊しているところを見られないだけでなく、ドア越しに中の人間を脅していても、ほかの住人には気づかれないから、格好の標的にされる。一戸建てでも、門や玄関が周囲から見えない物件は避けたほうが無難である。
子供の学校のスクールバスが自宅まで来てくれるかどうかも大事な要素である。玄関前まで来てくれると理想的だが、乗降地点が自宅から離れれば離れるほど、それだけ危険が増していくので注意しよう。

② 玄関の防御

玄関のドアには複数の鍵とチェーン(またはクロスバー)、あるいはドアの外側にグリル(鉄製の格子扉)があるのが理想的である。なければ家主に断って自分で設置してもよい。
グリルがない場合、ドアチェーンやクロスバーは必ずかけておく。ドアベルがなったら、すぐに玄関を開けずに「覗き穴」から誰が来ているのかを確認する。

③ その他の侵入経路

侵入経路は玄関だけではない。窓やバルコニーの外側には防犯鉄柵がほしいし、熱帯ならモスキート・ネット(網戸)も大家に要求してみるとよい。ただし、火災などの際に避難口も作っておく必要があり、その部分の施錠はしっかりしなければならない。もちろん、窓やバルコニーの扉にも鍵を設置する。戸締りはきちんとしておく必要がある。
また、コンドミニアムやコンプレックス(公寓、別荘住宅地のたぐい)には24 時間体制でガードマンがいるが、これはあまりあてにできない。
ここ数年の強盗致死事件は、主にコンドミニアムで発生しているが、ガードマンは真っ先に逃げている。それでも毎日挨拶をして通っていると、危険度はぐっと下がる。
なお、長期間家を留守にする場合は、留守であることがすぐにはわからないように工夫する。人が近づくと点灯するランプを玄関や窓の近くに設置しておくのもよい。

連絡網の構築

① 情報機器の準備

道具は、少し贅沢なくらいにそろえていくようにしよう。
電話は留守番機能があるものや FAX受信が可能なものを備えるほか、携帯電話、自動車電話、パソコンなど、できるだけ多くの手段を確保していく。テレビ・ビデオ関係は、MULTI(最低限 PAL とNTSC 両用)を選び、CNN などの有料回線とも契約しておくのが理想である。ラジオやラジカセは、短波も受信できるもの(3 〜 5 バンド)で、できれば周波数指定・自動追跡装置やタイマー付きのものがよい。
予備のパソコンも必要である。通信も通常電話、携帯電話の回線だけでなく、CATV などの有線回線も確保されているとよい。プロバイダについても赴任国、日本、アメリカなどいくつかの国に分けておくと安心である。

② 課題はソフト面

いくら情報機器や回線を確保しても、使いこなせなくては意味がない。日ごろから夫婦で一緒に練習して、使用方法に慣れておく。緊急時に手分けして情報収集を行うこともできる。また、「どこで、どういう情報が得られるか」についても、電話・FAX 番号とともに一覧表にまとめておこう。
さらに大事なのは、「誰が、誰に、何を伝えるのか」という組織内の情報経路と、「誰が、誰に、何をさせるのか」という組織の司令系統を、明確に定めておくことである。
安全情報に関する現地サイドの責任者と本社サイドの危機管理責任者とが明確でないと、情報が錯綜したり迷子になったりしてしまう。誰が決裁するのかが不明確だと、対策なども立てられない。
企業・団体などでは必ず、「第一報の受信者」を定めている。通常は 24 時間、いつでも連絡がとれる体制(日曜・祭日も可)となっているので、夫人や留守家族にも連絡先を教えておこう。

③ 連絡の複線化

連絡ルートは情報機器・回線を縦横に駆使していけば、いくらでも組み合わせが考えられるが、内乱や災害時にはかなりのものが使えなくなる。回線がパンクするまでに、できるだけ多くの情報を集め、日本の本社(危機管理責任者)に連絡を入れることを肝に銘じておこう。要は連絡ルートを思いつくだけリストアップしておくことである。

③ 連絡の複線化

連絡ルートは情報機器・回線を縦横に駆使していけば、いくらでも組み合わせが考えられるが、内乱や災害時にはかなりのものが使えなくなる。回線がパンクするまでに、できるだけ多くの情報を集め、日本の本社(危機管理責任者)に連絡を入れることを肝に銘じておこう。要は連絡ルートを思いつくだけリストアップしておくことである。

④ 緊急連絡リスト

○夫の勤務先、日本の本社(危機管理責任者)、近隣の駐在員事務所・工場など
○在外公館(日本大使館・領事館など)、日本人会、日本人商工会議所、国際協力機構など
○子供の学校・学級担任自宅・親しい友達宅など
○危機管理の専門業者、損害保険会社の現地事務所・提携アシスタンス会社、日本の保険代理店・航空会社など
○赴任国の警察署、消防署、航空会社、コンサルタント会社など
○赴任国の医療機関(ホームドクター・救急病院など)