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帰国後の教育

帰国後の学校選び

「帰国子女」という言葉

「帰国子女」という言い方は、本人たちには嫌がられる場合が多い。とくに「子女」に女性差別の空気を感じている人は少なくない。しかし、「子女」は日本国憲法第26条(義務教育)に「すべて国民は(中略)その保護する子女に」という表現(英文憲法では「boys and girls under their protection」)で登場している。「王子」「王女」というように中国古代から「子」は男子、「女」は女子、「子女」は子どもたちの意味で使われてきた。
帰国子女ネットワーク「私情つうしん」の主宰者である古家淳氏は、帰国子女の側からこう説明している。
「男」が保護する立場にあり「女」が「子」と同様に保護される立場にあるという含意もあるので、フェミニズム的な立場からは、やはり抵抗のある単語になってしまう(男子が家を継ぐという家父長制の名残も感じられる)。
最近は、公的機関でも「帰国子女」を「帰国児童生徒」と言い換えるようになってきたが、厳密には「児童」は初等教育に、「生徒」は中等教育に在籍する子どもたちのことで、これだけでは高校を卒業したあとの人びとが含まれない不便さがある。
「子女」が差別的な用語であるかどうかはともかくとして、「帰国子女」本人でこのコトバが好きだという人はほとんどいない。「帰国子女」というカテゴリーをつくり、名付け、個々人にそのレッテルを貼っていくこと、あるいは個人がその用語を受け入れることも拒否することも、ある政治性を伴う。(談)

英語圏以外からの帰国

英語圏や国際学校からの帰国子女の受け入れについては、かなりの情報が出ているが、そのほかの言語で学校教育を受けて帰国する子どものための情報は限られている。その背景には、英語にしか対応できない「帰国子女受け入れ校」がほとんどだという現実があり、フランス語やドイツ語、スペイン語などで教育を受けた帰国生の選択肢は、かなり少ないと言わざるを得ない。
しかし、まったくないわけではなく、海外子女教育振興財団の帰国子女外国語スピーチコンテスト(2003年で休止)には毎年、英語のほかフランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、オランダ語、ポルトガル語、中国語などの応募があり、立派に保持伸長ができている帰国生も多かった。フランス語、中国語から外務大臣賞が出た年も少なくない。
大切なのは、本人が自信を失わず、のびのびと学習していることである。現地の学校や地域社会に溶け込み、生活を目一杯楽しんでくることが、最大の財産になる。財団や学習塾の通信教育を続けることも大事だが、本人が負担を感じ過ぎないよう、上手に励ます工夫をしてほしい。

国立大附属小学校の帰国子女学級

お茶の水女子大学、東京学芸大学、神戸大学など国立大学の附属小学校には「帰国子女学級」が開設されているが、一般に、在外期間がとても長くて、日本語の基礎から教える必要のある児童が対象である。いわば公立小学校の学習についていけない児童のための特別クラスなのに、「国立大附属」というブランドイメージに惑わされると悩みや不安が増してくる。 ある程度、日本語ができるならば(とくに在外期間が3年程度、あるいはそれより短ければ)、むしろ近所の公立小学校の方がよい、という考え方も一理ある。しかし、いったん公立小学校に編入してから、「学校を間違えた」という例が多いのも事実である。学校自体が帰国児童にまったく配慮してくれない学校だったり、通学時間が極端に長くて子どもの負担過多だったり(越境通学)など理由はいろいろだが、子どもの状況をよく見ないで親が決めてしまうとあとが大変になる。適応教育をこじらせてから専門家に相談しても、解決策はなかなか見つからない。
ともかく、同じ両親の子どもでもまったく性格が異なったりするように、同じ環境で育ってきても、子どもの心身の成長状況はさまざまなので、帰国後の学校は慎重に選びたい。国立だからといって、どの子にも良いとは限らない。子どもを連れて、いろんな学校を見て回ること。「ここがいい」と子どもが顔を輝かせる学校に出会うまでは、諦めないことである。「学校が決まってから住むところを探せばよい」くらいに考えてほしい(帰国後2週間は、住民登録の猶予がある)。
附属中学校に進学できるかどうかは、中学校の校長・副校長の判断しだいだが、ほかの中学校に行く子どもも少なくない。

帰国児受け入れに慣れた幼稚園

海外の現地校や国際学校の幼稚部で学んできた幼児向けの幼稚園といえば、国内のインターナショナルスクールの幼稚部しかない。日本の学校教育法に基づいて設置される幼稚園で、帰国子女の受け入れをうたった幼稚園はないし、帰国子女受け入れの体制が整った幼稚園もない。ただし、帰国子女や外国籍・二重国籍の子どもが多く通っているところは、啓明学園幼稚園のほかにもいくつかあるので、こまめに探してみることである。

英語の保持方法

サマースクール

帰国後、幼稚園児が参加できるサマースクールにも、デイ・キャンプ(通い)と宿泊型がある。詳しくは、下記に問い合わせてみるとよい。アウトワード・バウンド協会のキャンプは、小学3年生以上が対象。啓明学園英語教育研究所のキャンプは、親子で参加する。



英語で社会科の勉強

最近、英語の保持教室はずいぶん増えてきたが、英語で社会科や理科の授業を行っている保持教室は意外と少ない(家庭教師や個人教授で社会科や理科の指導を受けるのは、比較的容易である)。海外子女教育振興財団の外国語保持教室では、夏休みを利用した特別コースを実施しているが、そこではかなり幅広い内容の指導となるようだ。 学習塾では、ABCD学院が「帰国子女バイリンガルコース」を開設している。アメリカの公立校並みの内容で、質的には問題ないが、受講料もかなりの値段である。

英国の発音保持

英国の私立学校に子どもを通わせていたので、クィーンズ・イングリッシュをキープしたいという保護者も多い。気持ちはわかるが、あまりこだわり過ぎると子どものストレスにつながるので、ほどほどにしたい。 個人教授なら、後楽園イングリッシュセンター(電話03-3515-6363)に頼めば、現役の英国人教諭を派遣してくれる。教室で仲間と一緒に学べるところでは、渋谷にハンプトン・スクール・オブ・イングリッシュがある(電話03-3406-1231)。ちなみに、英国人学校は渋谷教育学園のなかにある。徹底的に英国流をお望みならこちらがよいだろう。(電話03-3400-7353)

イマージョン教育の支援組織

小学校に「英語科」を設定する方針が決まり、導入時期についての検討が重ねられているが、すでにさまざまな「英語運用指導法」が試されている。海外から帰国した教師のなかには、英語のイマージョン教育(英語で体育や音楽、図工を教えることなど)に挑戦してみたいという教師も少なくない。 東京都教育委員会では、モデル・ランゲージ・スタジオ(MLS)という学校に、教職員研修を委嘱している。外国人講師に頼るよりも、現役の教師に頑張ってもらおうという方針のようだ。ドラマメソッドを使って、子どもたちにボディーランゲージを楽しく体得させていく指導法で、使いやすい教材・教具も提供される。教材監修には文部省の元教科調査官(英語)も関わっているので、内容もしっかりしている。教師なら一度ワークショップを体験してみるとよい。
http://www.mls-etd.co.jp

英検とTOEFLの相関

留学資格で「TOEFL 550点以上」というのは、英検でいうと何級くらいだろうか。また、TOEICという試験との違いは何なのだろうか。 ある私立学校で、英検(実用英語技能検定=STEP)とTOEFLとの相関を調べたところによれば、英検一級=560~610点、準一級=500~560点、二級=440~500点となったようである(あくまで目安だが)。最初から「腕試し」でTOEFLを受けるのは受験料がもったいないので、団体内試験(ITP)を受けてみるとよい。詳しくは、CIEE国際教育交換協議会 まで。
http://www.cieej.or.jp
TOEIC(トーイック)は、英語によるコミュニケーション能力を測定するために実施されるものである。主にビジネスマンが対象だが、日本の民間企業に就職したい人にも根強い人気がある。TOEFLが英語圏の大学などを受験したい人が対象なのに対し、TOEICはさまざまな分野の、より広いレベルの能力を測定しようとしている。どちらもETS(ニュージャージー州プリンストン市)が実施しているが、日本国内におけるTOEICの運営は別の組織に任されている。

TOEFLと国公立大学入試

日本の国公立大学入試ではTOEFLはどの程度利用されているだろうか。帰国子女特別枠の入学者選抜でTOEFLの成績がよく用いられることは知られているが、帰国子女枠でない場合となると、ぐっと少ないのが現状である。CIEE国際教育交換協議会TOEFL事業部の資料(2002年度)によれば、国公立大学の学部入試では5校が紹介されている。ほとんどがAO入試・推薦入試で評価対象とされているが、姫路工業大学環境人間学部の一般入試では451点以上を「資格技能点」として加点しているそうだ。また、東北大学のAO入試(I期とIV期)で評価されるのは「550点以上」だそうだから、かなり高いレベルを要求していることになる。