海外赴任リロケーションガイド赴任の準備方法や手順など、生活の基盤となる情報をご紹介

転校の準備

邦人子女就学状況

 海外駐在に伴われて海外に在住する日本人の小・中学生数は2004年4月現在で約5万4000人いるが、1996年頃から1万5000人前後となっていたアジア地区は1万6981人と増加傾向、北米は2万659人とここ数年横ばい、欧州はやや減少傾向で1万1549人となっている。
 大洋州の2907人はほぼ堅調、中東・アフリカは896人で安定しているものの、中南米は1156人(1970年代半ばのレベル)まで減ってきた。
 また、アジアでは72%、中南米では50%の子どもが日本人学校に通っているが、欧州は26%、中東・アフリカは32%にとどまっている(かつてはアジアで90%以上、中南米や中東・アフリカでは70~80%が日本人学校に通っていた)。北米とオセアニアは英語圏ということもあって、それぞれ2.3%、6%にとどまっている。

海外在住の日本人小・中学生

(外務省調べ。2004年4月現在)

日本人学校 補習授業校 現地校など
アジア 12,228 750 4,003 16,981
北 米 476 11,881 8,302 20,659
中南米 584 106 466 1,156
欧州 3,079 2,994 5,476 11,549
大洋州 182 613 2,112 2,907
中東・アフリカ 291 157 448 896
合 計 16,840 16,501 20,807 54,148
海外子女数(義務教育年齢の推移)

(「外務省在留邦人子女数調査」各年5月1日)

  1971年 1976年 1981年 1986年 1991年 1996年 2001年 2004年
アジア 1,961 4,287 7,451 8,927 11,267 15,023 14,778 16,981
大洋州 391 729 971 1,281 1,510 1,819 2,257 2,907
北 米 3,395 5,864 10,890 16,432 22,718 18,597 19,666 20,659
中南米 801 2,060 3,053 2,491 1,892 1,525 1,321 1,156
欧州 1,619 4,249 6,677 8,897 12,500 11,752 11,735 11,549
中東・アフリカ 495 903
1,158 1,365 886 1,024 1,010 896
合 計 8,662 18,092 30,200 39,393
50,773 49,740 50,767 54,148

情報の整理

 一般に、不安の原因の根本は、不安そのものの姿が見えないということにある。「不安が不安を呼ぶ」というときも、いったい何が不安なのかが把握できていないのが普通なので、誰かにその不安をぶつけてみるのが解決の近道である。「こんなことを悩むと馬鹿にされるのでは」などと一人で考えていないで、知人や専門家、あるいはインターネットの教育相談室に相談してみるとよい。話しているだけで気持ちが整理できるし、思わぬアドバイスがもらえるかもしれない。
 しかし、最近は体験記や案内書の類も多く出版され、インターネットを使えば膨大な量の情報にアクセスが可能になった。むしろ情報が多すぎて、それらを追えば追うほど不安になるということも起こる。氾濫する情報のなかで「正確で本当に役に立つもの」を選び出す目を養うことが、必要になってくる。

現地教育機関の情報収集

 情報収集作業は、夫婦の共同作業とすることがコツである。勤務先の支援体制を調べたり、前任者から話を聞いたりすることは夫がすべきだし、妻があちこちで得てきた情報に、男性の視点で解釈を加えることも大事だ。専門家の教育相談にも、夫婦そろって出かけるくらいの姿勢をもちたい。そうして集めてきた情報をもとに、夫婦がよく話し合うことである。
 そもそも子どもの教育自体が、夫婦の協力なくしては成り立たない。まして海外渡航は、子どもにとっては「天災」に遭うようなものなので、夫婦の教育方針(子育てのビジョン)がしっかり確立できていることが大事である。子どもに赴任決定を伝えるときにも共同作戦が必要だ。最初の数日は、現地でできる楽しいこと(大きな家や車、美しい自然、おいしい食べ物など)に重点をおいて、夫婦が楽しそうに話して見せることだ。友達と別れるのは辛いし、未知の世界は不安でも、海外での生活に前向きに臨めるように仕向けていきたい。
 焦って子どもに語学研修をさせても、あまり効果はない。それよりも、祖父母に会いに行かせたり、やりたいことをやらせたりして、リラックスさせてやることが大事である。
 学齢期の子どもであれば、どんな学校に通うことになるのかは重大関心事である。子どもの質問に答えるためにも、基本的な教育情報は押さえておこう。海外子女教育振興財団という専門機関があるので、最低限ホームページだけでも開いて見ておきたい。その際のキーワードをいくつか整理しておこう。

日本人学校

日本にいれば小・中学校に通う年齢の子どもに、日本の学校教育を受けさせたいという願いから、現地の日本人会などが中心になって設立した全日制学校(幼稚部を併設する学校もある)で、日本政府派遣の教師を中心とする日本人教師が、日本の検定教科書を使って指導に当たる。滞在国の言葉や文化などを理解するための学習や交流会など、海外ならではのプログラムもある。法的な性格からいうと私立学校だが、編入学の試験などはない。

現地校

赴任国で、子どもをその国の国民として教育するために設立されている全日制学校(公立・私立)。就学年齢や学年制が異なるのが普通で、その国の国語を使って指導する。公立校には学区があるので、住居によって通う学校が決まる。私立学校には、さまざまな入学資格があるので、直接問い合わせが必要。言葉の問題もあって、実際の年齢より下の学年に編入になることもあるが、日本の義務教育年齢(中学3年3学期まで)で帰国すれば、まず年齢相当の学年に戻れるので心配ない。

国際学校

 赴任国のカリキュラムによらずに多国籍の子どもを教育する目的の学校や、ある国が自国民の子どもに本国同様の教育を施すために設立した外国人学校(米、英、仏、独など)の総称(赴任国側から見れば、日本人学校もその一つ)。設置母体の教育思想や本国の教育制度の影響を強く受けており、使用言語は教育課程で、また学年制なども各校で異なる。私立学校として運営され、幼稚部から高等部までの一貫教育が一般的。日本の義務教育年齢で帰国すれば、原則として年齢相当の学年に戻れる。

補習授業校

 赴任国のカリキュラムによらずに多国籍の子どもを教育する目的の学校や、ある国が自国民の子どもに本国同様の教育を施すために設立した外国人学校(米、英、仏、独など)の総称(赴任国側から見れば、日本人学校もその一つ)。設置母体の教育思想や本国の教育制度の影響を強く受けており、使用言語は教育課程で、また学年制なども各校で異なる。私立学校として運営され、幼稚部から高等部までの一貫教育が一般的。日本の義務教育年齢で帰国すれば、原則として年齢相当の学年に戻れる。

私立在外教育施設

  日本の私立学校や企業などが、日本国内と同等以上の学校教育を行うことを目的に設置した全日制学校。教育方針や設置学年がそれぞれ異なるので、確認が必要だ。日本人学校は中学3年までしかないため、海外で日本の高校教育を受けたい場合に利用されることが多い(普通、寄宿舎が併設されている)。
 以上のように、海外で義務教育年齢の日本の子どもたちは、「日本人学校(全日制)」「現地校+補習授業校」「国際学校+補習授業校」、あるいは「現地校のみ」「国際学校のみ」「私立在外教育施設のみ」といった就学形態をとることになる。

転出手続き

 海外渡航に当たって子どもの学校関係の手続きは、引越し準備などと並行して進めることになるが、早め早めに手配するようにしたい。煩雑なようでも、一つひとつこなしていけば簡単なものばかりである。  まず海外赴任が決まり、子どもをいつまで学校に通わせるかが決まったら、その旨を担任の先生に話して「退学届」を提出する。退学というと嫌な感じもするが、子どもが海外に出る場合も退学と呼ぶことになっている。  出国の1か月前になったら、学校で「教科書給与証明書」(転学児童・生徒教科用図書給与証明書)を作成してもらい、認印とともに海外子女教育振興財団に持参する。そこで海外用の教科書を受け取れる。代理受領も可能で、遠隔地なら宅配便(実費負担)による送付も依頼できる。  出国前の2週間を切ったら、市区町村役所などで住民登録の転出手続きをする。これによって、子どもは義務教育の対象からはずれる。
 日本人学校あるいは私立在外教育施設に通いたい場合は、現在の学校で「転学書類一式」を作成してもらう。国内の転校であれば「在学証明書」(または「卒業証明書」)を保護者が預かり、「指導要録の写し」「健康診断票の写し」「歯の検査票の写し」は転入先の学校に直接、書留で郵送されることになっている。しかし、海外の場合は国際郵便事情や郵送料が高いなどの問題もあって、三つの「写し」も厳封のうえ保護者に託すのが慣例になっている。
 現地校や国際学校に通う場合は、英文の「在学証明書」と「成績証明書」の作成を学校に依頼する。英文様式の用紙が必要な場合は、海外子女教育振興財団で教科書を受領する際、窓口で購入する。「予防接種の記録」は、医師の英文による予防接種証明があれば完璧だが、健康診断書(英文)に書き入れてもらってもよいし、母子手帳の英訳を医療機関に頼んでもかまわない。  これらの書類がそろわないまま現地に行ってしまったり書類を紛失してしまったりした場合は、あわてずに転入先の学校に相談する。書類を英文で用意できなかったものは、自分で翻訳して現地の在外公館(日本大使館・総領事館など)で「翻訳証明」のスタンプを押してもらう方法もある。
 赴任地に到着して自宅の住所が決まったら、すぐに在外公館に「在留届」を出すことが旅券法で定められている。この届により邦人保護のための緊急連絡先に登録され、半年後からは日本の教科書が無償で配布される。

子どもの学用品の標準的なもの
(A:不可欠、B:必要、C:あると便利)※日本人学校の場合
辞書類 A 国語辞典、漢和辞典、英和辞典、和英辞典
B 学習百科事典、古語辞典(中学生以上)
C 現地語の辞典(英語圏以外の現地校ならA)
一般書籍 A 日本の歴史・文化の本(日本語版・英語版)、
絵本、少年少女文庫など(年齢に応じて)
B 日本地図、世界地図、年表、赴任国に関する本、
学習図鑑・参考書(学年に応じて)
学習道具 A パソコン(日本語OS)、書道セット、水彩絵具セット、折り紙(多量)、
裁縫道具セット(日本人学校小5以上。それ以外はC)
B 国語ノート、漢字ノート、筆記用具(鉛筆、赤鉛筆など)学習用カセット、
定規類とコンパス、ミシン糸、彫刻刀(小4以上)、
体操着と赤白帽(日本人学校のみ)
C 下敷き、シャープペンシル、原稿用紙、問題集・ドリル、クレパス
日用品ほか A 通学用カバン(ランドセルでないもの)
B 水筒、弁当箱、浴衣、レターセット、子どもの愛用品
C 雛人形、羽子板、テレビゲーム、携帯用ゲーム、特技を見せるための道具
(けん玉、お手玉、ソロバン、得意な楽器、手芸糸、一輪車など)

教育相談を受けるコツ

「いくら資料を読んでもわからない」「わが家にピッタリくる説明に出会えない」といった悩みがあるときは、専門の教育相談員に相談するのが一番である。上手に相談を受けるコツは次のとおり。

事前の情報収集

海外で勤務する町の様子や教育条件、予定される任期、帰国後に住むことになりそうな地域など、できるだけ情報を集めるほか、子どもの性格や興味・関心、学校での活動の様子などを担任の先生などからも聞いておく。

相談内容の整理

何を一番知りたいのか、あるいは何が一番心配なのか、といったことをよく考えて、箇条書きにしてみる。それが整理できてから予約を入れると、相談員も下調べをしておいてくれる。

まずは現地への適応

 「帰国時に有利・不利」という書き方をする情報誌が多いのも問題だが、渡航前からあまり帰国後のことを考えすぎると頭が混乱してしまう。まずは現地の生活をどれだけ充実できるかに重点をおいて考えてみること。

今後の相談のために

 専門の教育相談機関は、不安があれば何回でも相談できる体制を整えているが、前回どういう相談をして誰が答えてくれたかを伝えれば、より効率よく答えてくれる。相談後の整理を忘れないこと。Eメールでの相談なら、前回の回答にレス(返答)するかたちで送るとよい。
障害児を帯同する場合の相談先は、199頁に掲載。

海外子女教育振興財団

親に伴われて渡航する子どもたちの教育(渡航前から帰国後まで)を支援し、その環境を整備するための専門機関として1971年に設立された。外務省・文部科学省の共管団体だが、運営は海外に進出する企業・団体などが拠出する維持会費でまかなわれていて、進出企業などはすべて入会することが原則とされている。
 財団のホームページには、基本的な情報がすべて網羅されているし、偏りのない安心情報がそろっている。「月刊・海外子女教育」のバックナンバーもダイジェストで紹介され、Eメールによる教育相談も受け付けている。  財団で行っている主なサービス(個人向け)は次のとおり。

インフォメーションサービス(出国前~帰国後)

 海外の学校情報の提供、日本国内の受け入れ校情報の提供、教育相談の予約受け付け、教科書の受け渡し、英文在学証明書などの様式の販売、財団刊行物の販売など。

教育相談室(出国前~帰国後)

 現地の教育事情、海外での学校選択・編入手続き、持参教材、現地での言語習得・日本語教育・家庭教育、学習・生活上の留意点、帰国後の編入学・進学など。予約制で維持会員会社以外は有料。

現地校入学のための親子教室(出国前)

 アメリカに赴任し現地校に子どもを編入学させる家族を対象に、経験者を講師として、保護者にはアメリカの教育システムのノウハウを伝授し、子どもには模範授業により基礎的な英会話と学校生活を体験させている。

海外で使用する教科書の配布(出国前)

 文部科学省の依頼を受け、親の海外赴任に帯同される子ども用の教科書(日本人学校や補習授業校などで使用)を無償で配布している。

海外の小・中学生の通信教育(在外中)

 帰国後、日本の学校にスムーズに対応できるように配慮して作られた海外の小・中学生専用の通信教育(「通信教育と補習授業校」193頁)。

海外子女文芸作品コンクール(在外中)

 海外で貴重な体験をしている子どもたちの生の感覚(何を考え、何に感動し、何に悩んでいるか、など)を表現した詩・短歌・俳句・作文のコンクールを開催。優秀作品は作品集(「地球に学ぶ」)として刊行。各部門に文部科学大臣奨励賞。

帰国子女の外国語保持教室(帰国後)

 海外で身につけた語学力や広い視野にもとづく文化的・社会的な思考力を保持・伸張していくことを目的に開講。小・中・高校生がリラックスして楽しめる雰囲気とユニークな指導内容が特徴。

刊行物の発行(出国前~帰国後)

 「月刊・海外子女教育」「新・海外子女教育マニュアル」「帰国子女のための学校便覧」は基本となる資料。「海外子女教育手帳」「新・ことばのてびき〈算数(数学)・理科用語日英対訳集〉」は現地校・国際学校で学ぶ子どもに役立つし、帰国後の学習にも役立つ。「日本人学校・補習授業校 学校別パンフレット」では、赴任地の環境や日本人の通学可能な国際学校を紹介している。