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感染症対策

感染症は海外で生活するに当たって最もかかり易い病気の一つです。皆さんも海外旅行などでお腹を壊した経験をお持ちではないでしょうか。衛生環境は国によって違うため、その地域に応じた予防策と注意点についての知識をもって生活することが大切である。
ここでは、日本を含めた衛生環境の良い国に住む人たちが海外でかかりやすい代表的な疾患と、その注意点について紹介します。

食べ物や水から感染する病気

先進国の人が海外渡航する際にかかる消化器感染症に対し "旅行者下痢症" の病名が付けられている。何故 "旅行者"なのだろうか。旅行者が最も感染しやすい病気は下痢であるが、現地の人は同じように下痢をし続けてはいない。日本では感染しえない病原体に、現地の人は免疫があるためである。
途上国では日本のように上水と下水が完全に分離されている国は稀であり、生活用水に多少なりとも下水が混入することは避けられないため、飲用水の衛生レベルに大きな差がある。
旅行者下痢症を引き起こす原因は細菌、ウイルス、寄生虫、原虫など多岐にわたる。これらの原因に病原性大腸菌や腸チフス、キャンピロバクター、シゲラなどの細菌、A型肝炎ウイルスやノロウイルスなどのウイルス感染症、ジアルジアを中心とした寄生虫感染症が代表的なものとして挙げられる。感染経路は、便が口に入っておこるものが主である。
ワクチンは対応する病原体に対して確実性が高い予防方法であるが、現在製造されているワクチンは、あくまで感染しやすいもの、リスクの高い病原体に対するものに限られ、「A型肝炎」、「腸チフス」、「コレラ」に留まる。他の消化器感染症については知識をもって生活上の注意で補うことで感染の確立が下がる。
旅行者下痢症について "Peel it , Cookit, Boil it, or Forget it"という格言がある。要は「自分で剥いて食べるか、火で調理したものを食べるか、そもそも最初から無かったものとしてあきらめるか。」という意味である。
消化器感染症予防の基本は、加熱調理したものを食べることである。サラダ、カットフルーツなどの生もの、氷の入った飲み物は避けることは常識。
又、いくら加熱処理してあったとしても屋台で食べるのはご法度である。屋台は衛生的な水へのアプローチが極めて悪く、東南アジアの屋台で蝿がたかっていないものを食べる事は困難である。トイレや下水がオープンな地域にいる蝿の足には糞便がついているものと考えるべきである。屋台はあくまで現地の人が楽しむためのものであると認識しよう。
うがい、歯磨きも煮沸した水もしくは購入した清潔な水を使う必要がある。
また、限界はあるがシャワーの際も出来る限り水が口に入らない様(うがいもNG)、気をつけて頂きたい。
海外に生活して半年もするとだんだん現地の方たちと同じような免疫レベルになっていくかもしれないが、重篤な状況に陥らない為にも滞在中は、食品衛生には最大限の注意をし続けることが大切だ。

虫から感染する病気

世の中で一番「人」を殺している生物は「蚊」で、世界には「蚊」を中心とした虫を媒介する病気が数多く存在し、重篤な経過を辿る感染症も少なくない。また「蚊」以外にも刺し蝿、ヒアリ、カメムシ、マダニなど重篤な感染を引き起こす虫も世界中に広く存在するため、虫に対する対策は極めて重要である。
「蚊」が媒介する病気として最も恐ろしく注意が必要なものに「マラリア」がある。
「マラリア」というと「探険家などの特殊な職業の人がかかる病気だと思われがちだが、実は世界人口の 40%は、「マラリア地区」に居住しており、赴任先が「マラリア地区」である可能性も少なくはない。地球レベルで見た場合、病気の死因で最も多いのは「マラリア」なのだ。マラリア常在地域の住民はある程度の免疫を有し感染しにくい状況でこれだけ問題を起こしている事を考えると、渡航者がどれだけのリスクがあるか想像できよう。蚊は他にも「デング熱」、「チクングニア」、「日本脳炎」など、様々な病気を媒介する。
しかし、残念ながら現在のところ虫によって媒介される感染症に対するワクチンは、日本脳炎、ダニ脳炎ワクチン等に限られ、重要なマラリアやデング熱のワクチンは未だ製造されていない。
当該疾患の汚染地域に渡航する場合に、最も重要なのは虫に刺されないための対策をしっかりと行うことである。蚊に刺されない為には長袖長ズボンを着用する事が効果的だが、特にリスクの高い熱帯地域では限界がある。露出部が刺されない様な服装の対策も重要である。
この対策法は、蚊が皮膚に寄り付かない様にする効果を持つ「忌避剤」、もう一つは、周りの空間にいる蚊を殺虫する蚊取り線香等の「殺虫剤」である。

忌避剤

身体の露出部に直接塗布するもので、スプレー式、ローション式、ウエットティッシュタイプのものがある。忌避剤の主成分は、DEET であり、20%~50%の濃度を有する商品を選んで欲しい。濃度の差は、効き目の差ではなく、持続時間の差であるが、濃度が濃いほどその匂いが強くなり不快感は増す。
日本で販売されている忌避剤は DEETの濃度に規制が設けられており、その濃度では充分な虫除け効果は期待できない。一方海外では規制を受けている国は少なく、マーケット等で容易に購入できる。購入する場合の注意点として海外でもそのにおいから DEET を嫌う風潮があり、ハーブ系の物も販売されているようだが、その効果は極めて限定的だ。

殺虫剤

日本でもなじみの深い蚊取り線香、ベープ等の電子蚊取りやスプレータイプのものもある。
殺虫剤は身体に直接塗布することは出来ないことから、空気が停滞する屋内で使用するものである。屋外ではあまり効かない。海外では殺虫成分を塗布した蚊帳も販売されており、極めて効果的である。殺虫成分については日本では規制がなく、開発にとても技術が必要なことから日本製のものが極めて優秀である。アジア圏を中心に、その効果の良さから日本製は人気があり現地でも購入可能である。

狂犬病について

狂犬病はここ半世紀ほど日本では症例がなく、既に撲滅された疾患だが、未だ世界的には殆どの国において存在する。発症した場合の死亡率はほぼ 100% であり、その病状は壮絶な経過をたどるため、決して発症させてはならない病気である。
狂犬病ワクチンの予防効果はきわめて高いので、出国前に予防的なワクチン接種を済ませておく必要がある。
狂犬病は、犬だけではなくあらゆる動物が感染源となるので、動物に無駄に接触しないように心掛け、不幸にも何らかの動物にかまれた場合は、事前ワクチンを接種していても石橋を叩く意味で、国境を越えてでも信頼できる医療機関を受診することをお勧めする。
噛まれてから、どれくらいの時間までに接種を受けるべきか、よく質問されるが提示できる特定な時間はない。狂犬病の潜伏期間は噛まれてから 4 日後に発症した例の報告もあり、早ければ早いほど良いのは確かである。
それだけ狂犬病は恐ろしい病気なので、大げさなくらいの対処を行うべきである。
最後に、SARS、MERS、鳥インフルエンザ、また最近問題になっているジカ熱、エボラ出血熱、マールブルグ熱など、新たに世界的な問題を引き起こしている伝染病がある。
これらの病気については未知な部分も多く、状況は刻一刻と変わりつつある。これら新興感染症について警告が出た際は CDC のホームページ等で最新の状況を把握し、外務省や WHO などの指示に従って行動する必要がある。