海外赴任リロケーションガイド赴任の準備方法や手順など、生活の基盤となる情報をご紹介

公的機関への手続き

旅券(パスポート)の取得

旅券(パスポート)は、日本人であることを証明する政府の公文書(身分証明書)で、海外へ渡航する場合は必ず所持していなければならない。また渡航希望国の入国許可証(査証・ビザ)を受給するための条件にもなっているので、早めに取得するようにしよう。
 2006年3月から、冊子中央にICチップが格納されたIC旅券が導入された。それまでに申請された旅券は現行の旅券となるため、今後10年はIC旅券と現行旅券が混在することになる。  パスポートの有効期限は10年用と5年用があり、20歳未満はすべて5年用となる。
 入国の際に「旅券の有効期間が6か月以上残っていること」などを条件としている国があるので、すでに旅券を所持している人は有効期限を確かめておきたい。旅券有効期間が残り1年を切った場合は、新しい旅券に切り替えることができる。

一般旅券の申請には(1)一般旅券発給申請書1通、(2)戸籍抄本(または謄本。発行から6か月以内)1通、(3)写真1枚(規定の寸法内で、正面上半身無帽、無背景。撮影から6か月以内)、(4)申請者の住所・氏名を記入した(自己宛の)未使用の官製ハガキ1枚、(5)身元を確認できる書類(後述)、(6)すでに旅券を持っている人はその旅券、が必要である。
(注:住民基本台帳ネットワークシステムに参加していない市区町村の在住者は「本籍地の入った住民票1通」も必要となる)
 これらの書類がすべてそろったら、住民登録をしている都道府県の旅券申請窓口に行って申請する。
 有効期間が1年未満になったため切り替えを申請する場合は、取得済みの旅券がないと受け付けてもらえない。期限切れの旅券を所持している人もその旅券を持参し、「消印(VOID)」をしてもらう。そうすれば万一、紛失・盗難にあっても悪用を防ぐことができる。

 一般旅券の申請は代理申請も可能だが、申請者の身元を確認できる運転免許証や健康保険証などが必要になる。未成年者が申請する場合は、親権者の署名と捺印が必要である。  申請してから1週間前後で交付通知ハガキが送られてくる。必ず本人がハガキ、引換書(受領証)、手数料を持参して受領する。手数料はIC旅券の導入により従来より1,000円値上がりし、有効期限10年用が1万6,000円、同5年用が1万1,000円、申請時に12歳未満の場合(有効期限5年)は6,000円である。  旅券を受領したら、紛失したときなどに備えて必ず旅券の番号、発行年月日をメモしておこう。  かつては、海外赴任に同伴する子どもが15歳未満の場合は3人まで「親の旅券に併記」することができたが、現在は赤ちゃんであっても各自に旅券が必要となっている。子ども用の旅券の受領には、本人を連れていかなければならない(学校などは休む)。小学生以上は自分で署名するが、不可能な場合は親権者が代理署名することができる(日本語でよい)。

赴任先で生まれた子どもの旅券

 赴任先で子どもに恵まれたら、すぐに子どもの旅券を取得しておかないと、急きょ帰国することになったとき帰国が大幅に遅れてしまうことがある。本帰国するのであれば「渡航書」でもよいが、また赴任地に戻るとなると処理は複雑になる。

 赴任中に子どもが生まれたら、何はさておき旅券(日本か赴任国の旅券)を取得すべきで、とくに政情不安な国の場合は必須条件である。申請の方法は国によって異なるから、現地の大使館や領事館で必要な書類などを調べておこう。出生証明書や写真などは、いずれの場合も必要になる。申請者である親の身元証明書(日本の旅券や運転免許証など)の提示も求められる。

 日本の旅券については、まず、もよりの在外公館(日本大使館など)で出生届の用紙を入手する。出生届は在外公館に提出してもよいし、急ぐ場合は、日本の親戚などにお願いをして、外国語の出生証明書とその翻訳を添付し、本籍地の自治体に届出をしてもらう。その後、戸籍登録が完了した後、戸籍謄本を取り寄せ、在外公館でパスポートの申請を行う。
(注:これ以降、「旅券」の表記を、馴染みやすい「パスポート」とする)

ビザの申請

 入国・滞在の許可を示すビザ(査証)は、その国の大使館および領事館が本国の規定にもとづいて発給するもので、一般的には本人の勤務先や旅行代理店などに申請・取得の手配を依頼するケースが多い。海外勤務に必要な就労許可(ワーキングビザ)の取得は年々厳しくなっているので、家族用とあわせて早めに申請・取得したい(ただし、妻や子どもは働けない国が多い)。
 ビザの申請には、赴任先の国情などによっても異なるが、一般的に査証申請書、パスポート、写真(1~3枚)、勤務先の推薦状、申請者の英文経歴書、戸籍抄本(または謄本)、予防接種証明書などが必要になる。無犯罪証明書や健康診断書などを求める国もあるので、事前に旅行代理店などに問い合わせておくとよい。

 申請先は、その国の駐日本大使館または領事館のビザ取り扱い窓口になるが、国によっては申請者の住居地を直轄する公館になる場合もある。
 ビザの申請・取得には、各国とも厳しいハードルを設けるようになっている。とくに就労許可(ワーキングビザ)については、不法入国や不法滞在に伴う事件などが増えていることもあって、各国ともこれまで以上に厳しい規制やガイドラインを設けている。そのためビザにかかわるトラブルも急増している。

 ビザのトラブルに巻き込まれないように、ビザの申請・取得は専門の業者に任せる方法もある。難しいビザの申請・取得から、ビザ・トラブルの解決、ビザの更新、各種永住権の手続き、数次入出国許可の取得などのサポートを行っている。

国外転出届の提出

 海外に1年以上滞在する場合は、現在住んでいる市区町村役所に「国外転出届(住民異動届)」を提出しなければならない。受け付けは、原則として出発の2週間前からとされている。届が受理されると、住民台帳から名前が消され、自動的に選挙人名簿からも名前が削除される。国外転出届を提出する際は、提出の段階で、まだ正式に住所などが決まっていなくても、赴任先の国名および都市名程度は記入しなければならない。

 記入した転出予定日を過ぎると非居住者扱いとなり、印鑑証明や住民票などが受けられなくなる。自動車の処分など印鑑証明を必要とする手続きができなくなるので注意しよう。

納税

所得税

 海外勤務で得た給与所得には、日本の所得税は課税されないが、給与以外に不動産の貸付や資産の譲渡など日本国内で所得がある場合は、赴任前の住居のある地域の税務署に、確定申告して税金を納めなければならない。

 対象になるのは、その年の1月1日から日本を出発する日までの給与所得や不動産所得など、また海外に出発した日からその年の12月31日までの間に生じた、国内の家賃収入や資産の譲渡所得などである。収入が勤務先からの給与だけの場合は、基本的に勤務先で処理してもらえる。 出発前に所得の申告が間に合わない場合や赴任後の確定申告などは、「納税管理人」を選定して納税を代行してもらうことになる。納税管理人を選定する場合は、所轄の税務署に届け出なければならない(不要になった場合は解任届を提出する)。納税管理人を選定しないで海外に出発する場合は、出国の日までに、居住期間中だけを対象にした確定申告をしなければならない。

 海外勤務者の給与は非課税だが、日本法人の役員に支払われる報酬や賞与は課税されるので、注意が必要である。役員報酬などは国内での給与とみなされ、20%の所得税が源泉徴収される。役員報酬などに対する課税については、いくつかの国と租税条約が結ばれている。この租税条約に日本とは異なる取り扱いがある場合は、それが優先されることにも注意しよう。

住民税

 住民税は通常、勤務先を通して給料から天引きされる。前年の所得に応じて本人の居住地の地方公共団体に納めるが、年の途中で海外転勤になった場合も、その年の住民税(赴任の翌年5月末ころ請求がくる)は納めなければならない。勤務先に依頼して、国内給与から天引きしてもらうか一括払いにする、あるいは納税管理人に納税を代行してもらう。

固定資産税・都市計画税など

 海外勤務になっても、日本国内に土地や家屋などの固定資産がある場合は、固定資産税などの支払い義務が生じてくる。納税の方法は、銀行の自動引き落としにするか、納税管理人に支払いを代行してもらうかのいずれかを選択する。自動引き落としのほうが誰にも迷惑をかけないし、税額が変更になっても間違いがない。

 詳しいことは、所轄(所得税・住民税は居住地、固定資産税などは物件のある地域)の税務相談室または税務署に相談するとよい。

年金の継続手続き

 国民年金や厚生年金、共済年金などは、海外勤務になっても引き続き継続することができる。配偶者も国内と同じ扱いだが、厚生年金が適用されない現地法人などに勤める場合は、新たに国民年金に加入する必要がある。将来、加入年数が問題となるので注意しよう。
 国民年金への申し込みは「社団法人・日本国民年金協会」で受け付けている。申し込み用紙は、赴任先の在外公館(日本大使館など)にも備え付けてある。サラリーマンの妻の場合は、夫の勤務先が手続きを行うこともあるので、勤務先の海外人事担当に問い合わせてみるとよい。
 保険料は、国民年金協会の口座に振り込むか、日本の加入者名義の銀行口座に送金(そこから自動振替)する。
 親戚の人に加入手続きや保険料の納付を代行してもらってもよいが、できるだけ人の手を煩わせない方法を選ぶようにしよう。

帯同する配偶者の健康保険

 夫婦共働きで、妻が現在の職場を退職して夫の海外赴任に同行するケースが増えているが、この場合、妻の健康保険の取り扱いに注意が必要だ。夫は通常そのまま勤め先企業の健康保険の被保険者であることが継続される。妻が現在の職場を退職して海外赴任に同行する場合に、妻は夫の被扶養者として手続きを行わなくてはならない。これは、夫の勤め先企業が手続きを行ってくれるので、念のために確認をしておく。

 注意しなくてはならないのは、加入している健康保険組合によっては、ただちに妻が夫の被扶養者となれない場合があるということである。  健康保険組合によっては、被扶養者になるための規定を厳格に適用している場合がある。通常は、妻の年収が130万円を超えると夫の被扶養者になることはできない。

 ただし、政府管掌の健康保険と多くの健康保険組合では、妻が配偶者の海外転勤に同行するケースにおいては、たとえその年度の収入がすでに130万円を超えていても、今後の年収が130万円を超えない予定であれば、被扶養者と認めている。  一部の健康保険組合ではこの収入規定を厳格に適用しており、たとえば8月に退職して海外へ出国する場合は、すでにその年度の年収が130万円を超えているケースが多く、被扶養者となれない場合がある。

 国内居住者の場合は妻が国民健康保険に加入するのだが、これは住民票のある市役所・区役所などで手続きをするので、非居住者となる(住民票のない)海外赴任者の妻は加入できない。  このようなケースは、妻が退職した会社で加入していた健康保険に任意継続を申請する必要がある(ただし、保険料は全額本人負担となる)。